研究課題/領域番号 |
15K05460
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
石井 洋一 中央大学, 理工学部, 教授 (40193263)
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研究分担者 |
小玉 晋太朗 中央大学, 理工学部, 助教 (30612189)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カリックスアレーン / イリジウム / ハプティシティ変化 / Cp*配位子 / 配位子置換 / イソシアニド |
研究実績の概要 |
本研究では、これまで研究例の少ないカリックスアレーンの環内CH2基のCH結合活性化を遷移金属錯体を用いて行わせ、新規なO,C,O-三座配位子を開発すること、そしてその配位子を持つ有機金属錯体の特性を明らかにすることを目的としている。本年度はまずIr(III)錯体を用いてtBu-カリックスアレーン(C6H2tBu)4(CH2)4(OH)4のCH結合活性化を検討した結果、[Cp*Ir(OAc)2]などの錯体とtBu-カリックスアレーンをTHF中で還流することにより円滑にCH結合活性化が進行し、目的とするO,C,O-カリックスアレーン三座配位子を含む錯体[Cp*Ir{(C6H2tBu)4(CH)(CH2)3(O)(OH)3}]が収率約80%で得られることが明らかとなった。対応するRh錯体の合成も[Cp*Rh(OAc)2]を用いて検討したところ、キシレン還流条件でIrと同様の構造を持つと考えられる生成物を得た。後者の同定は引き続き行う。 次に、得られたIr錯体の反応性を検討した。COおよびPMe3 (L)は1molのみ反応し、O,C-カリックスアレーン二座配位子を含む[Cp*Ir(L){(C6H2tBu)4(CH)(CH2)3(O)(OH)3}]を与えた。一方、2molのXyNC, NpNC, AnNC (L')を用いて反応させると、モノハプト配位のC5Me5配位子を含む[(C5Me5)Ir(L')2{(C6H2tBu)4(CH)(CH2)3(O)(OH)3}]が生成した。さらに、過剰量のXyNCあるいはtBuNCとの反応では、Cp*Hが解離して[Ir(L')3{(C6H2tBu)4(CH)(CH2)3(O)2(OH)2}]が生成した。Cp*配位子は一般にハプティシティ変化を起こしにいとされ、遷移金属でモノハプト錯体が単離された例はほとんどないことから、上記は興味深い成果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、カリックスアレーンの環内CH結合活性化を鍵として新規なO,C,O-三座配位子を開発することを第一の目的としている。本年度の研究では、Ir(III)およびRh(III)錯体を用いることにより、tBu-カリックスアレーンから目的とするO,C,O-カリックスアレーン三座配位子を含む錯体の合成に成功した。特に、Ir錯体では高収率で生成物を得る方法を明らかとし、また単結晶X線構造解析を含む完全な同定にも成功した。Rh錯体については、Ir錯体とスペクトル的に類似の生成物を確認しているものの、完全な単離同定には至っていないので、平成28年度も継続して同定を進めることとする。 一方、O,C,O-カリックスアレーン三座配位子を含むIr錯体[Cp*Ir{(C6H2tBu)4(CH)(CH2)3(O)(OH)3}]の反応性に関しては、Cp*配位子のモノハプト配位へのスリップ、さらにCp*Hとしての解離という、極めて珍しい反応を段階的に観測することに成功した。従来、モノハプトC5Me5配位子をもつ遷移金属錯体は、反応中間体としてスペクトルを観測した例はあるものの、安定な錯体として単離した例はほとんどない。また、温和な条件下でCp*Hとして解離する例もわずかである。本研究で見出した錯体は、有機金属化学において特に重要な配位子であるCp*の新たな反応性を示すものとして価値が有るだけでなく、O,C,O-カリックスアレーン三座配位子自体の特異な性質の一端を示すものとも言えよう。以上より、初年度の段階としては想定した成果があったものと考えられ、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、O,C,O-カリックスアレーン三座配位子を含む錯体の合成に関しては、平成28年度中にRh(III)錯体の同定を進める。キシレン還流という比較的激しい反応条件を必要としていることから、より反応性の高い原料錯体の探索を進めたい。具体的には、[Cp*Rh(OCOtBu)2]、[(Cp*Rh)2(OH)3](OCOtBu)などの利用が考えられる。同様にして、Cp*Ru(II)、(C6Me6)Ru(II)、および(cod)Pd(II)の導入も検討する。 次に、得られたIr錯体の反応性として、Cp*配位子のハプティシティ変化を起こさせるには、現在までの検討ではイソシアニド配位子が必要である。平成28年度は、イソシアニド配位子以外の配位子でもこの反応を起こすことができるのか、そのためにはどのような条件が必要なのか、異種配位子の組み合わせによりこの反応を行うことができるのか、モノハプト配位とペンタハプト配位との間の可逆的変換が行えるのか、などの観点から、本反応をさらに検討する。また、ハプティシティ変化の量子力学的な検討についても着手する(お茶の水女子大学理学部の鷹野教授との共同研究を予定)。さらに、平成28-29年度に、合成した錯体の反応性としてアセチレン類およびカルボアニオン等価体との反応を検討し、カリックスアレーンのC-H結合活性化に続くC-C結合生成を行わせて、カリックスアレーン類の修飾反応としての利用を図る。 また、本年度目的としたIr錯体の合成が進んだので、平成28-29年度にかけてその触媒反応性、特に極性基質の水素化または水素移動型還元反応を実施できる見込みである。イミン類の水素化あるいは水素移動型還元から検討を開始したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費は今年度100,000円程度を想定していたが、実際には想定以上に支出があった。しかし一方で、物件費については必要としていた器具を現有の器具で代替できた部分があったこと、塩化ルテニウムについては使用量が少なく新規購入の必要がなかったことなどから、想定よりも低額の支出となった。結果として、46,301円と少額の未使用額が発生し、次年度に繰り越して使用することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額が46,301円と比較的少額であることから、この未使用額は全体を当初予定の物件費に加えて使用することとし、物件費として1246千円、旅費として100千円を予定している。物件費の内容は、当初計画通り、主としてガラス器具および試薬類、旅費は福岡大学(錯体化学会第66回討論会)などを予定している。
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