これまでに合成してきた、二酸化炭素(CO2)分子の捕捉に特別な添加剤が不要な、金属中心近傍にヒドロキシ基が位置するレニウム錯体を、光触媒、また、光増感剤共存下で触媒として、CO2還元反応を行い、系中で生成する錯体種を調査した。その結果、触媒反応に用いる塩基性条件において、金属中心近傍に位置するヒドロキシ基の水素が脱プロトン化して生じたヒドロキシドによって、2個の錯体が互いに配位して自己二量化することを、紫外可視吸収スペクトル、単結晶X線構造解析等から明らかにした。この二量体は単量体より長波長側に吸収帯を持つことから、ヒドロキシ基を持たないレニウム錯体と比較して、照射光の吸収光量が異なり、光触媒能の差異の原因の一つになったと考えられる。 本研究課題では、CO2還元能の他に、CO2分子捕捉能も有することを見出したレニウム錯体について、ジイミン配位子の種類、用いる溶媒や塩基など種々の条件を検討することで、そのCO2捕捉の必須条件、そして、CO2捕捉能が変調可能であることを明らかにした。このCO2捕捉の条件をふまえて、CO2捕捉を補助する添加剤を必要とせず、錯体自身で積極的にCO2を捕捉できる錯体を新規に設計し合成に成功した。これらの錯体は、その金属中心近傍にヒドロキシ基が配置されることで、溶液中で分子内にCO2分子を捕捉でき、そのヒドロキシ基の数や位置によって、CO2還元光触媒能が大きく異なることがわかった。また、その光触媒反応中に生成する中間体も同定することで、その光触媒能を左右する因子を明らかにできた。これらの結果から、CO2の回収・濃縮とその還元の両機能を併せ持つ金属錯体光触媒系を実現し、また、他の金属錯体光触媒系にも転用可能な新しい光触媒の設計指針を獲得できた。
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