研究課題/領域番号 |
15K05464
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
深港 豪 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (80380583)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | フォトクロミズム / ジアリールエテン / 近赤外光 / 蛍光スイッチング |
研究実績の概要 |
代表者らはこれまでに、可視光のみで可逆的なフォトクロミズムおよびそれに伴う蛍光特性のスイッチングが可能な新しいジアリールエテンを開発することに成功している(J. Am. Chem, Soc., 2014, 136, 17145-17154)。 平成27年度の研究では、先の研究で明らかとされた分子設計指針に基づき、より長波長側の可視光および近赤外領域の光でフォトクロミック反応を示す蛍光性ジアリールエテンの設計・開発に取り組んだ。先の研究において、ジアリールエテンに長波長吸収を有する蛍光色素を組み込み、両ユニット間のLUMOのレベルを最適化することで光反応性を付与できることが明らかとなっており、そのことを分子軌道計算を用いた理論解析により説明することが可能となっている。そこで、分子軌道計算を用いて、実際に分子を合成する前に目的とする近赤外領域の光で光反応を示す可能性のある分子設計を模索した。100個程度の分子構造をスクリーニングした結果、光反応性を得るために必要となるヘキサトリエン部分に分子軌道が広がるという条件を満足する分子構造に対する一連の相関性を明らかにすることができた。得られた知見に基づき、目的とする機能を有する分子の合成を現在進めている。 また、可視光および近赤外領域の光で可逆的なフォトクロミック反応を達成するための別のアプローチとして、三重項を経由する分子内エネルギー移動を利用する方法や、本質的に可視光応答性を有しながら周囲の極性環境に依存して光反応性が失活してしまうジアリールエテンに対し、適切な置換基を導入し、その分子をナノ粒子化することにより溶媒和の影響を除くことにより可視光応答性を達成する方法なども同時に検討を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「研究実績の概要」の欄で記載したように、平成27年度の研究によって、目的とする“より長波長側の可視光および近赤外領域の光でフォトクロミック反応を示す蛍光性ジアリールエテン”に対する分子設計指針を明らかにすることができており、すでにそれらの分子の合成に着手できている。また同時に、三重項を利用した分子内エネルギー移動を利用する方法やナノ粒子化など別のアプローチでの検討も進んでいることから、研究の進捗状況としては、おおむね順調であると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究で得られた結果に基づき設計された分子の合成およびその分子物性(光応答性)の評価を集中的に進める。可能な限り、拡張性の高い分子合成のルートを検討する。また、合成により得られた分子の光反応性と蛍光スイッチング特性を、光反応量子収率や光反応転換率などの観点から定量的に評価する。いくつかの分子の物性を比較することにより、最適な分子設計指針を明らかとしていく。 また、三重項を利用した分子内エネルギー移動を利用する方法やナノ粒子化など別のアプローチでの有用性についても同時に検討を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
試薬や器具といった消耗品が使用量およびコストの両面で抑えられた結果、物品費の使用額が予定よりも少額になった。また、予定していた論文投稿料の請求が年度末直前に届き、事務的な手続きが困難な状況であったため、支払いを次年度に回したことが原因で次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
発生した次年度使用額は研究計画を変更するほど大きなものではなく、基本的には当初の計画に沿って研究を進める。まずは、次年度に回した論文投稿料の支払いに使用する。それ以外の未使用額については、消耗品などの購入のための物品費に割り当てることで、次年度の研究をより円滑に推進する計画としている。
|