研究実績の概要 |
1.高選択的金属イオン抽出剤の開発 カリックス[4]アレーンの向かいあう二つのヒドロキシ基をカルボキシ基に変換したOH-CO2H型ハイブリッドカリックスアレーン(1)を合成し,溶媒抽出実験により金属認識能を調べた。その結果,配位子1は,Pd2+に対して高い錯形成能を示し,4種の貴金属イオン(Pd2+, Rh3+, Pt2+, Ir3+)を含む水溶液からPd2+を選択的に抽出した。一方,配位子1のフェノールユニットは,Au3+で酸化されることがわかった。そこで,配位子1のフェノールユニットを酸化したキノン型酸配位子(2)を合成し,溶媒抽出に用いたところ,5種の貴金属イオン(Au3+, Pd2+, Rh3+, Pt2+, Ir3+)を含む水溶液からAu3+を選択的に抽出した。このように配位子1, 2が,貴金属の回収に有効であることがわかった。このような金属認識能は,従来のカリックス[4]アレーンを骨格とした配位子にはみられず,カリックス[4]アレーンのヒドロキシ基を他の配位性官能基に置換する本研究の戦略が有効であることが示された。 2.ジホスフィン配位子の合成と触媒反応への応用 カリックス[4]アレーンの向かいあう二つのヒドロキシ基をジフェニルホスフィノ基に変換し,残りの二つのヒドロキシ基をメチルエーテル化したOMe-PPh2型ハイブリッドカリックスアレーン(L)を配位子とするPd2+錯体PdL(MeCN)2(BF4)2を合成し,種々の反応に対する触媒活性を調べた。その結果,PdL(MeCN)2(BF4)2が,ハロゲン化アリールを反応剤とする鈴木-宮浦反応や,宮浦-Michael反応に対して高い触媒活性を示した。また,この錯体は,他のカチオン性Pd(II)錯体が触媒しないチオフェノールによるエポキシドの開環を触媒することから,強いLewis酸触媒としても使用できることがわかった。
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