研究課題/領域番号 |
15K05468
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
片桐 洋史 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (40447206)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スルホニルアニリン / 蛍光色素 / 分子軌道 / 分子内電荷移動 / π共役系 / 水素結合 / 芳香族 / ドナー・アクセプター |
研究実績の概要 |
スルホニルアニリン類縁体はアミノ基とスルホニル基の数と位置で多くの類縁体を有する。今年度は、置換基の位置が異なる類縁体の合成に成功し、高い量子効率で青色発光することを見出した(λ=480 nm, Φ 0.7)。さらに、固体状態において優れた蛍光性を示すことがわかった。また、ブロック状黄色結晶(FormA)とひし形黄色結晶(FormB)の2種類の結晶多形が確認され、適切な溶媒を用いることで選択的な多形の制御に成功した。FormBはFormAと比べ吸収と蛍光波長ともに長波長化し、2倍程度高い蛍光量子効率を示した。続いて、昨年度に確立した手法を用いて多置換類縁体の合成を検討した。その結果、得られた多置換ベンゼン前駆体が高い量子効率で緑色発光を示すことを見出した(λ=500 nm, Φ 0.9)。また、ストークスシフトが大きく(90 nm)、吸収と蛍光スペクトルは溶媒の極性にほぼ依存しないことが明らかになった。さらに、固体状態で蛍光性を示し(Φ 0.1)、その蛍光波長は溶液中とほぼ等しいことがわかった。単結晶X線構造解析の結果、硫黄原子周辺が顕著に折れ曲がり、ベンゼン環の面間距離は大きな値を示した(4.9 A)。この折れ曲がり構造が効果的にスタッキングを抑制することで固体蛍光性を発現したと推察される。また、市販のDNA を用いてUV-Vis スペクトルによる滴定実験を行い、色素由来のスペクトル変化から、色素の芳香環と核酸塩基の相互作用を調査した。その結果、グルーブバインディング型の認識様式が示唆された。続いて、生体分子への結合部位としてNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)を導入した。その結果、生体分子のモデルとしてペプチド化合物の標識に成功し、その際に吸収と蛍光スペクトルに変化が無いことを確認した。以上の結果から、スルホニルアニリン系蛍光色素の蛍光プローブとしての有用性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、新規なスルホニルアニリン類縁体の合成と生体分子結合基の導入を達成した。特に、得られた全ての類縁体が高い量子効率を示したことから、今後の蛍光色素の設計に大きな可能性が見出された。また、生体分子結合基の導入は蛍光特性を阻害しないことから、蛍光プローブとしてのさらなる展開が期待できる。以上の結果から、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、硫黄の酸化状態の異なる多置換スルホニルアニリン類縁体の合成を行う。特に、酸化状態の違いによる光学特性チューニングは、単一の骨格から異なる発光波長を持つ蛍光色素群の開発につながることから、材料化学だけでなく構造有機化学ならびに合成化学的にも極めて重要な課題である。また、当初計画していた類縁体の中でフッ素を持つ化合物群の開発を行う。現時点で酸化反応の進行を確認しており、今年度は脱保護することによって目的を達成する。さらに、昨年度達成した手法を用いてこれら蛍光色素への生体分子結合基の導入を検討する。
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