研究課題/領域番号 |
15K05469
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
飯村 兼一 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10272220)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超薄膜 / 表面・界面物性 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
水素結合能を有する極性官能基を疎水鎖末端に持つ有機アルコキシシランのトルエンを溶媒とした溶液中に、ミクロ相分離単分子膜で表面修飾された固体基板を浸漬すると、シリカの前駆体ゲルが、一方の表面領域にのみ、その領域の形を断面として維持したまま自発的に垂直成長する。本研究では、この垂直成長構造体(Vertically Grown Structure: VGS)の形成を、単分子膜面内の二次元構造を鋳型(設計図)として三次元構造物を構築する新規な自己組織化技術として発展させることを目的として実施した。 VGSの断面形状、サイズ、分布は、鋳型となる混合展開単分子膜のミクロ相分離構造により決定されるが、そのミクロ相分離構造は様々な条件に依存して変化する。そこで、成膜パラメータと分子充填構造の関係を評価したところ、円形と線状ドメインを形成する場合では、膜分子の充填密度に明確な違いがあることが確認された。これは、これらの系のミクロ相分離構造が凝縮相ドメインにおける膜分子の易動性によって支配されていることを支持するものである。また、針状の凝縮相ドメインが形成される系では、膜分子の親水基間での水素結合の形成が確認され、水素結合ネットワークに起因する分子鎖の傾きによる線張力の異方性が針状構造形成の起源である可能性を示唆する結果を得た。また、それらの知見に基づき設計・作製されたVGSに対する構造解析により、VGS内部での分子充填構造やVGSの周期性を評価した。また、VGS表面を利用した細胞培養足場表面の作製やナノポアフィルターへの応用研究を進めた。前者については、多様な形態的特徴と表面官能基を有するVGS作製を実現し、後者に関しては、VGS表面に一旦被覆した高分子膜を溶媒中での超音波処理で剥離する方法によって、剥離後の高分子膜にVGS形状に沿ったホールが形成されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VGSの設計図となる混合展開単分子膜におけるミクロ相分離構造の分子レベルでの形成機構や制御原理について明らかにしつつある。特に、条件によって円形から線状の凝縮相ドメインが形成される系および幅数十nm間隔で直線状に発達した針状ドメインが形成される系に対して、膜分子の充填構造とドメイン形態について明確な関係性があることを実証し、成膜パラメータの制御による鋳型表面設計のための指針を得た。これらの成果は、本研究における根幹を成す部分であると同時に、界面における両親媒性分子の自己組織化現象全般にも通じる重要な知見であると考えられる。また、それらに基づき作製された鋳型表面に対するVGS形成を実現し、VGS内部の分子充填構造を明らかにし、効率的に高品質なVGSを形成するための装置が整備された。一方、VGS表面の応用研究についても、作製手法やキャラクタリゼーション法の開発と改良が進められた。全体としてみればおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
VGSの形態・空間分布制御に関する研究を継続し、目的に応じたVGS表面を効率的に作製するための技術の開発・改良を進める。また、これまで行ってきたVGS表面の応用技術の高度化を進めるとともに、有機太陽電池や金属ナノギャップ構造表面への利用を目指した研究を開始する。 有機太陽電池への応用研究では、透明電極基板上に形成させたVGSと半導体化合物の溶液、あるいはVGSと半導体粒子の分散液の組み合わせにより、VGS構造を利用した光電変換システムを構築する。有機半導体を用いた場合には、VGSピラーの周囲および上部に極性の異なる半導体分子を充填した相互貫入型とする。半導体粒子を用いた場合には、ピラー電極としてまたは色素吸着場として利用する。いずれの場合でも、ピラー構造による接触面積の増加と、サイズや形状、分布の最適化による光電変換効率の向上を目指す。 金属ナノギャップ構造表面への応用研究では、線状VGSの間に、金属を充填した後、VGSを除去することによって、金属ナノギャップ構造を構築する手法を開発する。金属としてはプラズモン材料として最も典型的なAuを中心に用いる。VGS間への充填方法としては、蒸着法や溶液/基板界面での中での直接合成・析出法、あるいはナノ粒子吸着を利用する方法などが考えられるが、まずは蒸着法から検討を始める。
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