研究実績の概要 |
平成29年度は、昨年度からの課題であったGdを含むヘテロ金属内包フラーレンの単離とスピン状態の決定に成功した。具体的には、それぞれ単離したGdM@C78(M=Sc, La)について、多周波数ESR測定(X-band, W-band)によりスピン状態を決定することができた。ScとLaはf電子を持たないため、関係するスピンはGdのスピンS=7/2と内包ダイマーの分子軌道上のスピンS=1/2である。シミュレーションの結果、二種のスピンは強磁性的に相互作用し、S=4が基底状態であることが明らかとなった。ホモ体のケースから予想されたこととはいえ、実験的に確認できたことは大きな成果である。また、Laの超微細結合定数も決定できた。その値をLa2@C78のアニオンと比較したところ、約1/9であった。これは、ダイマー軌道に対する内包金属の原子軌道の寄与が金属の組合せによって変わることを意味しており、炭素ケージ中の二原子分子の科学の面白さを表している。 Gd内包フラーレンの他にTm2@C78の合成・単離にも成功した。Tmの3価はf電子を12個持ち、J=6が基底状態である。Tm2@C78のESRスペクトルは有効スピンS=1/2でシミュレーションできたため、2個のTmとダイマー分子軌道上のスピンが形成するクラマースダブレットを観測したものと推定された。詳細な解析は今後の課題である。
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