研究実績の概要 |
前年度の研究を展開させて、テトラセンの5,12位に異なった長さのアルキニル基の導入を行い、鎖長変化が固体物性に及ぼす効果を調査した。5,12-テトラセンキノンとアセチリドとの反応、続く塩化スズ/塩酸溶液とのワンポット処理により、テトラセンの5,12位に炭素の個数が奇数のアルキニル基(C5H7,C7H11,C9H15)の導入を行った。全ての化合物は溶解性が高く、トルエンやヘキサンなどに可溶であった。溶液中の吸収スペクトル、および、蛍光スペクトルの波形はアルキニル基の長さにかかわらずほぼ同じであった。また、蛍光量子収率も0.1付近のほぼ同じ値であった。固体の蛍光はほとんど観測されなかった。励起状態での失活過程が多く存在することが示唆された。C5H7とC7H11体のX線結晶構造解析を行い、分子の構造と分子パッキングについて調べた。C5H7体のアルキル部分はジグザグ構造をとっていたが、そのジグザグ平面がテトラセン平面に対し片方は共平面でありもう片方は直交の関係にあった。一方、C7H11体では、二つのアルキル部分がジグザグ構造をとっている共通点があったが、二つのジグザグ平面はテトラセンと共平面の関係にあった。さらに、C7H11体では、結晶学的に構造が異なった分子が単位格子内に4つ存在していた(C5H7体は一種類であった)。C5H7体の固体色調は他の側鎖長の化合物に比べるとより赤色が濃い特徴が見られた。固体の反射スペクトルの測定からクベルカ-ムンク変換を行って吸収スペクトルの形式に変形すると、吸収端が他のものに比べ50nmは長波長側にシフトしていた。この原因をX線結晶構造における分子配列から調べた。C5H7体は他の結晶に比べ、テトラセン環の間の距離が短いこと、およびπ-オーバーラップがあることがわかった。この配列の違いにより、色調の長波長化と色の深みをもたらしたことが示唆された
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