研究課題/領域番号 |
15K05483
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤原 秀紀 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70290898)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 分子性伝導体 / 伝導性 / 磁性 / 安定有機ラジカル / TTF / 光機能性 / X線構造解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、TTFなどのπ電子ドナー部位に対し安定有機ラジカル部位を置換した複合分子やその磁性遷移金属錯体を開発し、伝導性π電子と安定有機ラジカル、遷移金属dスピンが協奏しあう高次の磁気的相互作用を有する磁性伝導体の開発を目指している。平成29年度は研究計画・方法に従い、引き続き安定有機NOラジカルを内包する複合分子の新規開発とそのカチオンラジカル塩・遷移金属錯体の作製とその構造・複合機能性の評価を行った。その中で、2,2,5,5-Tetramethylpyrrolin-1-yloxyl radicalを、ビニレンスペーサーを挟んでTTFに結合させた分子1、およびエチニルスペーサーを挟んでTTFに結合させた分子2をそれぞれ用いることにより、1 : 1組成のカチオンラジカル塩、1・FeBr4 および2・FeBr4 が得られたので、それらの構造解析を行った。どちら塩の場合もドナーとアニオンは1 : 1塩を形成しており、TTFは1電子酸化状態にある。1・FeBr4塩においてTTFは強く二量化し、二量体内におけるTTFの硫黄同士の最短距離は3.49 Åであるため非常に強く二量化していることがわかった。また、TTFの硫黄と鉄の最短距離は4.55 Åであるのに対し、硫黄と臭素の最短距離は3.52 Åであった。そのため、臭素を介しての磁気的相互作用の発現が期待される構造であることがわかったが、TTFの二量体の上下左右をFeBr4に囲まれた構造をとっていることから伝導性は絶縁体であった。 一方、2・FeBr4塩において、ドナー分子はA,Bという2つの一次元的な配列構造を構築し、そのドナー層とアニオン層は分子横方向において交互に積層している。また、TTFは積層内で強い二量体を形成しているため、絶縁体であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度以降の研究計画・方法に従い、引き続き安定有機NOラジカルを内包する複合分子の新規開発とそのカチオンラジカル塩・遷移金属錯体の作製とその構造・複合機能性の評価を行った。平成29年度の研究実績に示すように新しいFeBr4塩などの作製に成功しており、おおむね予定通りに進行している。M(hfac)2錯体などの各種遷移金属錯体については検討を行っているが、まだ良質な結晶試料が得られていないため、今後も継続して検討を行う。一方、新規な複合分子の開発については、イミンスペーサーを介して安定有機ラジカルを有する新規分子の開発に成功しているので、平成30年度はその分子を用いた各種錯体の作製を行う予定である。物性評価については、伝導性や、構造解析など予定通りに進行している。また、共同研究者である新潟大の古川准教授により、光照射による過渡的なスピン状態のダイナミクスに関するパルスESRを用いた共同研究を推進しており、日本化学会第98春季年会において発表が行われている。 平成28年度以降の研究計画・方法 ①ジアセチレンスペーサーを有するπ-n複合型ドナー分子の合成と光重合物質の開拓については、エステル結合で安定有機ラジカルとジアセチレン部位を結合させた分子の開発に最近成功している。平成30年度は、その光重合に関する研究を進展させる予定である。また、②安定有機NOラジカルを内包する複合分子の遷移金属錯体を用いた伝導性カチオンラジカル塩の作製とその構造・複合機能性の評価については、そのM(hfac)2 (M=Cu, Mn, Co..) 錯体の作製に取り組んでいるところであり、作製次第、カチオンラジカル塩の作製と物性評価を行う予定である。 以上の観点から、進捗状況として、おおむね順調に進展しているとした。
|
今後の研究の推進方策 |
②安定有機NOラジカルを内包する複合分子の遷移金属錯体の作製とその構造・複合機能性の評価について、今後は、電気分解法や混合法による結晶作製を行う際の温度や溶媒、電流・電圧値など各種条件を再検討すると共に、結晶を与えやすい分子構造への変更を行うことで、問題点を克服していく予定である。また、遷移金属錯体が合成できた場合には、各種伝導性カチオンラジカル塩の作製を計画通り進めて行く予定である。 一方、ジアセチレンをスペーサーとして有する分子の開発については、エステル結合で安定有機ラジカルとジアセチレン部位を結合させた分子の開発に最近成功していることから、今後は、光重合物質の開発とその物性評価を推進していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
243,016円の残金が生じたが、これは予想よりも物品費および旅費を使用しなかったためである。
この剰余金は、平成30年度まで研究期間を延長し、研究を引き続き推進するために物品費および旅費として使用する。
|