研究課題/領域番号 |
15K05485
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
北澤 孝史 東邦大学, 理学部, 教授 (60246767)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スピンクロスオーバー / 高スピン錯体 / 低スピン錯体 / 分子磁性 / 八面体錯体 / 結合距離 / 磁化率 / メスバウアー分光法 |
研究実績の概要 |
スピンクロスオーバー(SCO)錯体は温度・圧力・磁場・電場・光など外部刺激により高スピン(HS)状態、低スピン(LS)状態を可逆的に行き来することができる。このスピン状態の変化により、錯体のサイズや色が変化し、磁性の変化を起こす。特にFe(II)化合物では、スイッチング分子デバイスの観点から幅広い研究が行われている。また、Fe(II)を架橋配位子であるシアン化金属イオンを用いて集積化させた2次元及び3次元構造を持つHofmann型SCO錯体が報告されている。本研究では、配位子を系統的に変化させた新規Hofmann型SCO錯体の合成をし、その結晶構造の変化に伴う磁気挙動の比較検討を行った。 直接法では粉末結晶の合成の検討を行った。蒸気拡散法、接触法では単結晶の合成の検討を行った。中心金属としてモール塩を使用した。架橋配位子には平面4配位型金属イオンおよび直線2配位型金属イオンを使用し、新規なピリジン系配位子を用いて、新規なSCO錯体の合成の検討を行った。また、平面4配位型の場合、緩衝溶液としてクエン酸と1,3-Diaminopropaneを使用し合成法の検討を行った。直線2配位型の場合、鉄の酸化防止剤としてアスコルビン酸を使用し、合成法の検討を行った。 得られた新規スピンクロスオーバー錯体のそれぞれSCO挙動についてSQUIDによる磁化率測定、X線吸収分光(XAFS)測定による比較を行った。さらに単結晶X線構造解析、メスバウアー測定を用いてSCO挙動についての検討を行った。また、発光特性についても温度変化の測定を行った。 また、XAFS測定ではFe K-edgeスペクトルのみ温度変化によるピークシフトが起きた。これは、LSの場合に結晶場分裂が大きくなった事を示している。よってSCO現象にはNiおよびAuサイトは関与せず、Feのみで起きたことを支持した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
配位高分子をホスト骨格に有するホフマン型スピンクロスオーバー化合物は,二次元ホストの構成金属イオン、ホスト面を支える配位子、層間の空孔に包接されたゲスト分子などからなり、その磁気転移挙動がこれら構成要素の多様な組み合わせによって興味ある様相を示すことを新規スピンクロスオーバー錯体を合成することで明らかにできた。今年度、このような超分子的包接構造を持つ物質群に関して、ホスト骨格からの発光現象を調ることがスピンクロスオーバー化合物ではないが、八面体6配位部位にCd(II)を持つHofmann型高分子錯体で行うことができた。 本研究では、Au(I)を含む発光性ホフマン型錯体をとりあげ、この発光機構の解明と外部因子(温度、圧力、磁場など)が変動した時の光応答を明らかにすることが目的であるが、それに近づくことができた。それをもとに、温度や外部磁場の微少変化で顕著な発光特性変化を示す新規発光性磁気材料へと展開する可能性を見出した。 本研究で、結晶学的に同型なフレームワーク中に立体化学的見地から系統的に選んだ一連のゲスト種を包接させ、得られた化合物について広い温度範囲の単結晶構造解析と磁気測定を測定することができた。その結果、格子とゲストおよびゲスト同志の協同的相互作用(水素結合やπ-πスタッキングなど)が、磁気転移挙動を非常に微妙に影響していることを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ、発光は隣り合ったホスト格子中のAu(I)イオン間の電子的相互作用の結果生じたLUMOからHOMOへの遷移に基づくと考えている。しかしその発光が、Fe(II)のスピン状態あるいはゲスト分子の違いによってどのような影響を受けるかは未だ明らかになっていない。そこでこの発光性超分子錯体の発光挙動を解明し、新しい磁気発光材料としての可能性を拓くために今後以下の研究を行う。 (1)まず一連の八面体6配位直線2配位のホフマン型化合物を合成し、構造と発光挙動との相関を明らかにする。特に着目する点は、隣り合った格子面中のAu(I)イオン間の距離で、これを第一パラメーターとして発光収率、発光スぺクトル、発光寿命などに及ぼす影響を調べる。 (2)上で調べた化合物中で、発光収率の高い化合物の微結晶試料について、外部因子の変動が発光挙動に及ぼす影響を調べる。ここで、{[Fe(II)(3-Fpy)2][Au(I)(CN)2]2}nのスピンクロスオーバー転移が2段階を経て行われる事実に着目し、転移の中間状態(HS状態とLS状態がともに50%)での発光の様子が、温度や圧力などの変動に対してどのように応答するかを調べる。 (3)発光の物理的側面を解明するために、大きな単結晶(>5 mm)の作製を試み、得られた単結晶を用いて、発光の偏光性(結晶中のAu(I)-Au(I)結合方向との関連)および、その偏光性が強度が温度や磁場を変えた時にどのように影響されるかを調べる。 (4)最終段階として、新規発光性磁性材料として展開するために、この化合物の薄膜化を試みる。ホストとして粘土鉱物などの剥離可能な層状無機化合物を用い、層間へのインタカレーションによる薄膜化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入した紫外・可視分光用クライオスタット一式が、当初1,400,000円で購入予定であったのが、最終的に1,384,732円で購入したため。 また、旅費においては、パック旅行を使用したため経費が節減できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
ホフマン型Fe(II)-Au(I)錯体の発光挙動を解明し、新規発光性磁性材料としての可能性を拓く目的で以下の研究を進める際の有機試薬および金属試薬の物品費としての使用を計画している:(1)八面体6配位直線2配位のホフマン型化合物におけるAu(I)-Au(I)間の距離に着目して、類似構造の化合物の合成と構造解析、発光スペクトル測定を行う。(2)得られたスピンクロスオーバー化合物(粉末結晶試料)について、外部条件(温度、圧力、磁場など)を変えたときの発光挙動(波長、強度、寿命など)の影響を調べる。また内部条件として、ゲスト分子を変えたときの影響も調べる。 これらの研究成果の発表を国際会議や錯体化学討論会で行うための旅費及び学会登録料の使用を計画している。
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