研究実績の概要 |
d4~d7錯体は、高スピン状態と低スピン状態をとりうる。そして、温度・光・ゲスト分子挿入などの外部刺激により、二つの電子配置を可逆的に行き来するスピンクロスオーバー(SCO)現象を発現する。主に、ゲスト分子としてCl基が置換した芳香族化合物を選択し、その置換位置と磁気挙動および電子状態の相関について検討した。 配位子に4-(3-Pentyl)pyridine、架橋配位子にAu(CN)2-を用いたホスト骨格Fe[4-(3-Pentyl)pyridine]2[Au(CN)2]2にゲスト分子としてchlorobenzene, o-, m-, p-dichlorobenzeneを挿入した。これらの包接体は200 K付近で鋭いスピン転移が見られた。ホスト構造は2次元ホフマン型構造をとり、八面体六配位のFe2+のアキシアル位に4-(3-Pentyl)pyridine、エクアトリアル位にAu(CN)2-が配位している。 ゲスト分子は、ホスト骨格の層間に収まっていることが単結晶X線回折から判った。磁化測定では、ゲスト分子の形状が大きいほど、転移温度が室温寄りになることが判った。そのため、ゲスト分子を挿入することにより、ホスト骨格の配位子とゲスト分子との間に相互作用が生じると考えられる。X線吸収分光測定では、Fe K-edgeにおいて低温では室温より高いエネルギーへの移動が見られた。一方で、Au L-edgeでは温度変化に伴うエネルギー変化は見られなかった。このことから、SCO現象はFe2+のみで起こっていることも判った。 さらに、類似錯体Cd(II)-Au(I)系の蛍光特性を明らかにするとともに、シアン化カドミウムゲスト高分子錯体の結晶構造のゲスト依存性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピンクロスオーバー(SCO)錯体は温度・光・圧力・電場といった外部刺激によって高スピン(HS)状態と低スピン(HS)状態を可逆的に行き来することができる。スピン状態が変化することで錯体のサイズ・体積の変化が伴うと同時に色の変化・磁性の変化等が起きる。またHofmann型錯体は高次元に集積化されていることによりSCO現象が顕著に現れる為、Hofmann型SCO錯体に注目して研究してきている。本研究では、架橋配位子に[M(CN)4]2- (M = Ni, Pd, Pt)を用いた新規Hofmann型SCO錯体、Fe(Ethyl Isonicotinate)2Ni(CN)4 (1a), Fe(Ethyl Isonicotinate)2Pd(CN)4 (1b), Fe(Ethyl Isonicotinate)2Pt(CN)4 (1c), Fe(Allyl Isonicotinate)2Ni(CN)4 (2a), Fe(Allyl Isonicotinate)2Pd(CN)4 (2b), Fe(Allyl Isonicotinate)2Pt(CN)4 (2c)の合成及び特性評価を行ったからである。 錯体1bと1cの結晶構造はFeを中心にアキシアル位にEthyl IsonicotinateのN原子が2つ配位し、エクアトリアル位に [M(CN)4]2- (M = Pd, Pt)が4つ架橋したHofmann型構造を形成していることが分かった。錯体2bと2cもほぼ同じだが、違う所はFeが2サイト存在しそれぞれの配位子であるAllyl Isonicotinateのpyridine面が垂直になる様に配位していた。これはAllyl Isonicotinateが比較的嵩高い配位子である為、互いに影響し合わないように配位した結果この様な形になったと考えられるからである。
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