研究課題/領域番号 |
15K05486
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大月 穣 日本大学, 理工学部, 教授 (80233188)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛍光色素 / チオフェン / ナフタルイミド / パイ共役 |
研究実績の概要 |
我々は,ナフタルイミド骨格のπ共役系をチオフェン単位(チエニレン)で拡張した色素が,一般的に使われている色素より格段に耐光性に優れていることを見いだし,その光物性を明らかにした. 本研究では,さらに共役系を拡張した色素を合成し,吸収・蛍光波長の長波長化を図り,耐光性を含めた光物性を詳細に明らかにしつつある.チオフェン単位が2つつながった部位で,ドナー部位とナフタルイミド部位が架橋されたプッシュ-プル型色素,そしてさらにチオフェン単位が4つつながった部位で架橋されたプッシュ-プル型分子を合成した.比較用に,ドナー部位のない色素も合わせて合成した. これらの色素について,非極性溶媒のトルエンと極性溶媒のジメチルスルホキシド中での吸収スペクトル,発光スペクトル,発光寿命を求め,量子収率,放射失活速度,無放射失活速度を決定した. 一例を紹介すると,プッシュ-プル型色素ではチオフェン数が1から2へ増加すると吸収波長はトルエン中で440 nmから466 nmへ,ジメチルスルホキシド中で445 nmから475 nmへと長波長にシフトするが,チオフェン数が2から4へさらに増加すると,意外なことに傾向は逆になり,トルエン中で466 nmから450 nmへ,ジメチルスルホキシド中で475 nmから460 nmへ短波長シフトすることが明らかとなった.原因は今のところ不明であり,今後解明すべき新しい課題である. さらにこれらのπ拡張型色素は,クマリンやFITCといった市販の蛍光色素よりも光耐性に優れることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,初年度には,(1)共役系伸張チエニレンナフタルイミド誘導体の合成,および,(2)分光特性の解明として,(2-1)吸収・蛍光スペクトル,(2-2)蛍光寿命と蛍光量子収率,(2-3)密度汎関数理論計算,(2-4)耐光性,(2-5)結晶構造解析を行う計画であった.このうち,(2-5)以外は全て予定通り行い,さらに2年目以降の主要な計画である共役系伸張ナフタルイミド誘導体の合成と分光特性の解明を行った.具体的には,チオフェン単位が2つつながった部位で,ドナー部位とナフタルイミド部位が架橋されたプッシュ-プル型色素,そしてさらにチオフェン単位が4つつながった部位で架橋されたプッシュ-プル型分子を,当初の予定どおり合成し,さらに比較用として,ドナー部位のない色素も合成した.これらの色素について,予定していた基本的な光物理的な特性を全て求めた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ナフタルイミド色素にピリジニウム部位を結合することによって水溶性分子とし,DNAとの相互作用を調べる.ナフタルイミドの母分子はDNAと相互作用し,吸収や蛍光が変化することが知られており,DNAプローブあるいはDNA切断試薬としての応用が考えられている.我々のπ拡張ナフタルイミドはより長波長に吸収や蛍光を示すので,生体での利用により適しているという利点がある.ピリジニウムに結合し,チオフェンによりπ系を拡張したドナー-π-アクセプタータイプのプッシュ-プル型色素,また比較用としてドナー部位のない色素を合成し,DNAとの相互作用を調べ,DNAとの結合による吸収や蛍光の変化,またその機構を明らかにすることに主として取り組む. また,これまでの研究で明らかになった,π系の拡張と吸収・発光の波長シフトが単純な関係にないという結果の理由を明らかにすることをめざす.このために,どのような実験的アプローチが可能か検討中であるが,密度汎関数理論による理論化学計算からのアプローチはすでに開始している.
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表用の旅費を支出しなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
研究の中間段階で発表できる成果も十分得られてきたため,成果発表のための学会出張旅費,参加費等に用いる予定である.
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