我々は本助成研究開始前,ナフタルイミド骨格のπ共役系をチオフェン単位(チエニレン)で拡張した色素が,一般的に使われている色素より格段に耐光性に優れていることを見いだし,その光物性を明らかにした.本助成研究では,さらに共役系を拡張した色素を合成し,吸収・蛍光波長の長波長化を図り,光物性を詳細に明らかにした.具体的には,ナフタルイミド骨格のπ共役系をチオフェン単位2つと4つで伸ばし,それぞれについて,電子供与基であるアミノ基を持つ化合物と持たない化合物を合成した.これらの色素について,非極性溶媒のトルエンと極性溶媒のジメチルスルホキシド中で吸収スペクトル,蛍光スペクトル,蛍光寿命を測定した.電子供与基をもたないシリーズでは,チオフェン単位の数が0から4になるにつれて,吸収極大波長は360 nmから450 nmへ長波長シフトし,蛍光極大波長は410 nmから590 nmへ長波長シフトした.一方で電子供与基をもつシリーズでは吸収は430 nmから460 nmへ,蛍光は560 nmから650 nmへ長波長シフトした.しかし,電子供与基をもつシリーズではチオフェン2つの化合物とチオフェン4つの化合物の吸収,発光波長はほぼ同じであり,この値がこのシリーズの長波長の限界であることが示された.また,ナフタルイミド色素の有用性を示すため,水溶性部位を付与した共役系拡張ナフタルイミド色素を合成し,DNAとの相互作用を検討した.この化合物の示す吸収と蛍光の変化は,既に知られているナフタルイミドと異なることが明らかとなった.また,関連したπ共役系化合物として,種々の正孔輸送材料を合成し,ペロブスカイト太陽電池の成功輸送層としての機能を評価した.
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