研究実績の概要 |
ピリジン環の4位にジメチルアミノ基を有するN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)は様々な有機合成反応で広く利用されている求核性有機触媒であり、これらにキラリティーを導入し、不斉反応に応用する研究は重要な研究課題として位置付けられている。そのようなキラルDMAP触媒の中でも特に有用なものとして知られているのが、米国のGregory C. Fu教授らによって開発された面不斉ピリジン誘導体(Fc*-DAAP)である。Fc*-DAAP はユニークな面性キラリティーをもつ触媒であり、多くの不斉反応で優れた選択性を示す汎用性を備えている。しかしながら、工業化などの大規模合成においては、その潜在的なポテンシャルが十分に引き出されていないのが現状である。その理由は、本触媒のオリジナルの合成法がキラルHPLCによるラセミ体の直接光学分割に基づくもので、大量合成に不向きなためである。このような背景の下、本研究では新たな閉環手法を用いる光学分割に頼らないFc*-DAAPの選択的合成法の開発を試みた。 初年度からの二年間で、Fc*-DAAPの新たな合成法の開発に成功し、多数の誘導体の合成を達成した。具体的には、フェロセンCp環上を置換したペンタメチル体、ペンタフェニル体、ペンタベンジル体を母核にもつ触媒の合成を行うことができた。最終年度は、本合成法を駆使することで誘導体の種類のさらなる充実を図り、構築したFc*-DAAPのライブラリーを利用して、二種類の異なる不斉反応を試みた。この結果、本研究で独自に開発した新たなFc*-DAAPが一方の不斉反応で最高のエナンチオ選択性を発現することが明らかとなり、本研究で開発した触媒の有用性を実証することができた。
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