研究課題/領域番号 |
15K05495
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 一秋 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (80251669)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒスチジン / 多点活性化 / ペプチド / 触媒 / 加水分解 |
研究実績の概要 |
本研究の発端となったHis含有ペプチド触媒のHis側鎖イミダゾールの基質固定化効果に関して,当初有機溶媒中で行っていた反応を水系溶媒に変えたところ,期待したほどの加速効果が出ないことが分かった。これは,水系溶媒中ではそもそも疎水性相互作用によって基質が触媒近傍に集まりやすく,このためHisの寄与が”薄まって”しまうためと推察された。このことから,当初予定した非ペプチド系の含イミダゾール型アミン触媒の開発については実現が困難と判断して,研究の方向性を変更することとした。 Hisは生体内でセリンプロテアーゼの活性中心に含まれ,側鎖のイミダゾールはセリン側鎖ヒドロキシ基あるいは水分子の脱プロトン化による活性化に寄与していることが知られている。そこで,今回のHis含有ペプチドを加水分解触媒として用いることを着想した。基質として,p-ホルミルフェノールエステルを用い,ホルミル基がペプチドN末端のプロリンによってイミニウムイオンへと活性化され,それによってエステル部分の求電子性が増加,そこにイミダゾールで活性化された水分子が攻撃する,という仮説に基づいて反応を検討したところ,期待通りの加速効果が観察された。ペプチド配列中のHisの場所は重要であり,N末端から5残基目のHisを4残基目に変えると反応の加速効果が著しく減少し,His側鎖がペプチド上の適切な位置にあることの必要性が明らかになった。また,Hisをもたないペプチド触媒と外部から加えたイミダゾールの組み合わせでも目立った加速効果は得られず,イミダゾールがペプチド側鎖に存在することの重要性も確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画どおりには運ばなかったものの,視点を代えることで別な機能のペプチド触媒の設計に成功しており,さらにこの新しい系には立体あるいは位置選択性などの可能性が秘められることから,十分な進捗が得られたと判断できるため。
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今後の研究の推進方策 |
上記でも述べたとおり,今回見出された加水分解反応には立体ならびに位置選択的な反応へと展開可能であり,ある程度大きな反応場を提供できるというペプチド固有の性質を引き出していく予定である。さらには,加水分解に限らず,Hisを適切な反応活性をもつ側鎖を有するアミノ酸に代えることによる拡張性も検討する。
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