研究実績の概要 |
まず,前年度の結果を受けて,His含有N末端プロリルペプチドによるエステル加溶媒分解反応の検討を続けた。この触媒は,プロリン部位が基質とイミニウム塩を形成して活性化し,これに His側鎖のイミダゾールが求核的にあるいは塩基として作用して加溶媒分解を促進する,という協同効果に立脚している。これまでは,触媒による明瞭な反応加速は確認されているものの,光学活性化合物であるペプチド触媒に期待される不斉識別能はほとんどみられていない。そこで,今回,キラリティーをもつ基質を用いて,ペプチド触媒による速度論的光学分割を試みた。基質の構造やペプチドの配列,反応条件を種々検討したものの,残念ながら特筆すべき結果は得られなかった。 一方我々は,触媒活性をもつN末端プロリルヘプタペプチドのライブラリスクリーニングによる探索も行ってきた。今回このライブラリの構成要素としてHisを加えることで,先入観なしにHisの協同作用がある触媒を探索した。具体的には末端プロリン以外の6箇所に(Aib, His, Leu, D-Pro, Trp, Tyr)のいずれかのアミノ酸をもつペプチドライブラリを作製し,触媒活性を調べた。しかしながら,いずれの活性ペプチドも,他の5種のアミノ酸は一定割合で含まれているにも関わらず,Hisを全く含まないことが分かった。スクリーニングによりコンセンサス配列が得られたため,その配列の一部を固定してさらにライブラリ探索を行い,さらには人為的なアミノ酸改変なども行った結果,活性・選択性ともに高い触媒として,Hisを含むPro-D-Pro-Leu-d-Pro-Aib-Trp-D-His-Trpに到達した。基質との結合性テストの結果,この触媒にはHisの協同効果が認められた。
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