研究課題/領域番号 |
15K05496
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
堀野 良和 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (30447651)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | パラジウム / 三成分連結反応 / アリルホウ素 / アリルスズ / カップリング反応 |
研究実績の概要 |
アリル位ジェミナルメタロイド/パラジウム中間体の特性を活かし,炭素-メタロイド結合の活性化を利用した炭素-炭素結合形成反応と,続く中間体と有機金属反応剤によるクロスカップリング反応を連続的に行う新形式の三成分連結反応を開発することを目的としている。これらの研究を通して,ジェミナルメタロイド(または典型金属)/遷移金属中間体の特性を活かした触媒反応の新境地開拓を目指したい。 これまでに,ピナコラトボリル基が置換したアリル位ジェミナルメタロイド/パラジウム中間体形成を利用する分子変換反応は,その協同効果により,求核的なアリル化反応とカップリング反応がタンデム型反応で進行することを見出している。今回,アリルアセテートの3位にスタニル基が置換した基質で,三成分連結反応を検討した。ピナコラトボリル基が置換した基質を用いた場合と同様に,σ-アリルパラジウム支配による環状遷移状態を経由して反応が進行するが,ピナコラトボリル基が置換した基質を用いた場合には 擬シスデカリン遷移状態,スタニル基が置換した場合には擬トランスデカリン遷移状態を経由して進行する興味深い知見が得られた。結果として,E体ならびにZ体のanti-ホモアリルアルコールを立体選択的に合成できる触媒的手法を確立できた。さらに,ピナコラトボリル基が置換した基質を用いても,配位子ならびに溶媒の選択により,E体ならびにZ体のanti-ホモアリルアルコールを立体選択的に作り分ける合成手法も開発した。 これまでの研究によって,σ-アリルパラジウム支配による環状遷移状態がなぜ有利なのか明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スタニル基が置換したアリルアセテートを用いて,アルデヒドとトリアルキルホウ素との三成分連結反応を検討した。その結果,アンチ体のホモアリルアルコールが良好なE-選択性で得られた。興味深いことに,ボリル基が置換した基質を用いた場合とは逆の絶対配置を持つ生成物が得られた。本反応は,ボリル基が置換した基質を用いた場合にはσ-アリルパラジウム支配による擬シスデカリン遷移状態を形成し,スタニル基が置換した場合には擬トランスデカリン遷移状態を形成して進行することが明らかになった。さらに,ボリル基が置換した基質を用いても,E体ならびにZ体のanti-ホモアリルアルコールを立体選択的に作り分けることが可能となった。即ち,電子供与性のホスフィン配位子を用いた場合にはZ体の生成物が得られ,配位子を用いずに極性溶媒中で反応を行うとE体の生成物が得られた。不斉転写の検討の結果,E体ならびにZ体の生成物を与える反応のいずれにおいても高い不斉転写率で生成物を与えたが,E体とZ体で絶対配置が異なる興味深い知見を得た。また,トリアルキルホウ素非存在下,3位にボリル基を持つアリルアセテートとアルデヒドとの反応を行うと,ホモアルドールの等価体を与えた。この場合,不斉転写を伴わずに進行した。即ち,上述した三成分連結反応における高い不斉転写の発現には,トリトリアルキルホウ素が重要な役割を担っていることが明らかとなった。一方,アレニル位ビスメタル中間体の特性を活かした反応開発を目指し,3位にスタニル基が置換したプロパルギルアセテートを用いて同様の反応を検討したところ,パラジウム触媒非存在下で三成分連結反応が進行し,三置換オレフィンを持つanti-ホモアリルアルコールが立体選択的に得られた。 以上、本研究は計画した通り,スタニル基を持つアリルアセテートならびにプロパルギルアセテートを用いた分子変換まで順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画通り,二価パラジウム触媒によるアリル位C-H結合活性化を利用したアリル位ジェミナルメタロイド/パラジウム中間体の新規発生法の開発へと展開する。現在,パラジウム触媒によるアリル位C-H結合活性化を利用した炭素-炭素結合形成反応は,従来型のアリル化反応を踏襲した反応開発が多く,アリル化反応以外の新しい形式の反応開発が望まれている。これまでの知見に基づき,アリル位C-H結合活性化を利用して,アリル位ジェミナルメタロイド/パラジウム中間体形成の開発とそれを利用した三成分連結反応を目指す。 一方,シリル基を持つアリルアセテートを用いてアルデヒドとの反応を検討したところ,シリル基上のアルキル基またはフェニル基の転位を伴いながらアリル化反応が進行することを見出した。この反応の最適反応条件を精査し,新たな炭素骨格形成反応を開拓する。 アルキニルスズを基質に用いた場合には,アルデヒドとトリアルキルホウ素との三成分連結反応がラジカル反応で進行する新奇三成分連結反応を見出している。この反応は,アルキニルスズに特異的に進行する極めて珍しいラジカル反応で進行する。NMR,ESR等の各種スペクトルの変化を観察することで反応中間体の特定など詳細な反応機構の解明を目指す。また,この反応基質の許容性を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
パラジウム触媒以外の遷移金属触媒での反応開発を実施できなかったため,消耗品の購入が予定よりも少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と合わせた使用計画を下記に示す。引き続き昨年度実施できなかったパラジウム触媒以外の遷移金属触媒での検討を行うための費用と,当初の研究計画で予定している有機合成用試薬類および実験用消耗品が必要であるため,1252144円を物品費として使用する。また,国内学会と国際学会発表に必要な旅費として300,000円を計上する。
|