パラジウム触媒存在下,3位にピナコラトボリル基が置換したアリルベンゾエートを用いて,アルデヒドとアリール錫との三成分連結反応を検討したところ,配位子の有無によってZ体ならびにE体のホモアリルアルコールの作り分けが可能となった。即ち,配位子存在下ではZ体の生成物が得られ,配位子非存在下ではE体の生成物が得られた。一方,キラルな基質を用いて不斉転写の検討を行ったところ,Z体の生成物を与える条件では89%の不斉転写率で反応が進行したのに対し,E体の生成物を与える条件では不斉転写率が98%であった。興味深いことに,Z体とE体の生成物ではその絶対配置が逆転していた。これらの事実から,本反応は,3-ボリルアリルベンゾエートの酸化的付加後に生成するα-ボリル-σ-アリルパラジウム中間体において,アリルホウ素がアルデヒドと六員環遷移状態を形成するのではなく,σ-アリルパラジウムがベンズアルデヒドと環状の遷移状態を形成すると考えられる。これは,パラジウム上のベンゾイルオキシ基がホウ素に分子内配位することでホウ素のルイス酸性が低下し,パラジウムのルイス酸性が向上することが要因と考えられる。ここから,Z体の生成物を与える場合には擬シスデカリン遷移状態を形成し,E体の生成物を与える場合には擬トランスデカリン遷移状態をそれぞれ経由して進行する。本手法は,官能基許容性が高く,アルケン末端にアリール基を有する種々のアンチ体のホモアリルアルコールを立体選択的に合成することができる。本反応で得られる生成物は,従来のアリルホウ素を用いるアルデヒドのアリル化反応では合成が困難であり,アリル位ジェミナルメタロイド/パラジウム中間体の特性を活かした反応開発を行うことができた。さらに,本手法を利用することで,官能基許容性に優れたα位にシリル基が置換したアリルボロネートの新規合成法も開発することができた。
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