研究課題/領域番号 |
15K05499
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 武司 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20624349)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヘリセン / 不斉合成 / ニッケル触媒 / 高分子触媒 / らせん不斉 / アセチレン / [2+2+2]環化異性化 |
研究実績の概要 |
光学活性ヘリセンは芳香環がらせん状に縮環したキラル化合物であり、その特徴的な構造・物性を利用したキラル触媒や光学分割カラム、有機光学材料の開発が期待されている。光学活性ヘリセン類縁体の合成法の開発には大きな関心が集まっており、なかでも少量の光学活性化合物から多量の光学活性化合物を生み出すことが可能な触媒的不斉合成法の開発が精力的に進められているが、そのエナンチオ選択性や基質一般性は未だ不十分なものであり、光学活性ヘリセンの効率的合成法の確立は急務となっている。 我々は、右巻きらせん構造を有するポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)の側鎖に配位性のホスフィン部位を導入したキラルらせん高分子配位子PQXphosを既に開発している。これまでにPQXphosを用いてニッケル触媒によるトリインの不斉[2+2+2]環化異性化を行うと、キラル低分子配位子よりも高いエナンチオ選択性で光学活性ジベンゾ[6]ヘリセンが得られることを見出している。この知見を基に、本年度は、反応条件のさらなる最適化によるエナンチオ選択性向上と基質適用範囲の拡大について検討を行った。 反応条件の検討においては、4mol%のニッケル触媒存在下、t-ブチルメチルエーテルとテトラヒドロフランの混合溶媒中、-30℃で反応を行う条件が最も良い結果を示し、リン上にフェニル基を有する右巻きのPQXphos を用いると(-)-ヘリセンが65%収率、83%eeで得られた。一方で、リン上に4-エトキシフェニル基を有する右巻きのPQXphosを用いると、エナンチオ選択性が逆転し、(+)-ヘリセンが73%収率、88%eeで得られた。置換基を導入したジベンゾ[6]ヘリセンの合成にも取り組んだところ、無置換のものと同程度の収率、エナンチオ選択性で反応が進行し、最高91%eeで光学活性ヘリセンが得られた。(+)-ジベンゾ[6]ヘリセンの円偏光二色性スペクトルより、(+)-ジベンゾ[6]ヘリセンが右巻きらせん構造を有していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
右巻き・左巻きのらせんキラリティを有する光学活性ヘリセンは、その構造に起因する特有の物性を示すことから、機能性材料への応用が期待されている。その一方で、このような光学活性ヘリセン類縁体の合成法は未だ限られており、効率的な不斉合成法の開発が求められている。本研究では、キラルらせん高分子配位子を用いたニッケル触媒によるトリインの分子内[2+2+2]環化異性化反応により、光学活性ジベンゾ[6]ヘリセンの効率的な不斉合成法を開拓した。本手法では様々な置換基を有するジベンゾ[6]ヘリセンを高エナンチオ選択的に合成可能であり、光学活性ヘリセン研究のボトルネックであった効率的合成法の欠如を大きく改善するものと期待される。また、円偏光二色性スペクトルによりジベンゾ[6]ヘリセンのキラルらせん構造に関する知見も得られつつあることから、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、ジベンゾ[6]ヘリセンの触媒的不斉合成とらせんキラリティに関する基本的な知見が得られている。次年度はこの結果を踏まえ、ジベンゾ[5]ヘリセンやジベンゾ[7]ヘリセンのンのみならず、主骨格中にピリジン環を導入したヘテロヘリセンやエチレン架橋部位を導入したテトラヒドロヘリセンなど、様々なヘリセン誘導体触媒的不斉合成について検討する。構造が異なるこれらの基質の反応においては、PQXphosのリン上置換基の最適化が必要となることが予測される。PQXphos のリン上置換基による生成物の立体の逆転現象は、そのエナンチオ選択性発現のメカニズムを反映するものであり、その機構解明は構造最適化の大きな指針となると期待される。これらの検討により、ニッケル触媒によるアルキンの環化三量化反応に基づいた光学活性ヘリセンの高エナンチオ選択的合成法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の使用計画においては、難溶性のヘリセン誘導体を分析するために、良溶媒であるハロゲン系溶媒が使用可能な耐溶剤型のキラルHPLCカラムの購入を見積もっていた。しかしながら、研究を進める過程において、既に所有していた単一の耐溶剤型キラルHPLCカラムですべてのキラルヘリセン類縁体の光学異性体を分離することが判明し、新たなキラルHPLCカラムを購入する必要がなくなったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度も様々なキラルヘリセン類縁体の触媒的不斉合成に取り組むため、必要であれば新たな耐溶剤型キラルHPLCカラムを購入する。また、キラルヘリセンの大量合成にあたり、有機試薬購入費が増大すると見込んでいる。
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