研究実績の概要 |
我々は、右巻きらせん構造を有するポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)の側鎖に配位性のホスフィン部位を導入したキラルらせん高分子配位子PQXphosが、ニッケル触媒によるトリインの不斉[2+2+2]環化異性化において光学活性ジベンゾ[6]ヘリセンを高エナンチオ選択的に与えることを見出している。また、本反応においてPQXphos のリン上置換基によりエナンチオ選択性が逆転することも見出している。本年度はこれらの結果を踏まえ、PQXphos のリン上置換基によるエナンチオ選択性の逆転現象の解明と、アルキンの3分子間不斉[2+2+2]環化異性化による軸不斉ビアリールの応用に取り組んだ。 まず、右巻きPQXphosのリン上置換基がエナンチオ選択性に与える影響について、選択性を決定づけると考えられるニッケラサイクル中間体の計算化学的解析を行った。結果、PQXphosの含ホスフィンユニットのキノキサリン環とリン上のフェニル基、および基質のフェニル基の3つの芳香環がスタッキングするπ-π相互作用が左巻きヘリセンの生成に重要であることが見出された。リン上のフェニル基のパラ位に置換基が存在する場合には、ポリキノキサリン主鎖との反発によりこの相互作用が形成されなくなり、逆のエナンチオマーである右巻きヘリセンの生成が優先されることを示す結果も得られた。これらの結果を含めた論文を投稿準備中である。 また、軸不斉ビアリール合成への応用では、1-ナフチルプロピオル酸エステルとアセチレン2分子間のニッケル触媒[2+2+2]環化三量化において、PQXphosが従来の低分子キラルホスフィン配位子を上回るエナンチオ選択性で軸不斉ビアリールエステルを与えることを見出した。現状では最高61%eeと中程度の選択性であるが、PQXphosの構造最適化により、さらなるエナンチオ選択性の向上が期待される。
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