有機化合物は炭素原子間の連結を基本骨格としており、分子に存在する官能基の種類や数によって様々な性質を示す。とりわけカルボニル化合物は、カルボニル基の持つ特徴的な反応性とそれに基づいた官能基変換の容易さが相俟って有機合成化学の中心的役割を担っている。カルボニル基のα位が官能基化された化合物も数多く知られ、なかには生物活性を示す物質も少なくないことから医薬品などへの応用研究が進められている。そのため、有機合成において最も重要な変換である炭素-炭素結合の形成とカルボニルα位の官能基化を一段階でかつ触媒的に達成できれば、有用な化合物群の効率的供給が可能になる。そこで本研究では、パラジウム触媒を活用し、通常は求核剤として振る舞う「パラジウムエノラート」中間体を求電子的性質へと逆転させる「極性転換」を基軸に据え、炭素-炭素結合形成による骨格構築とカルボニルα位の官能基化を一挙に行うカルボニル化合物の新規合成技術の確立を目指している。 平成30年度では、以前に開発した「極性転換型環化的ヒドロアミノ化」の基質適用範囲の拡張を行った。また、本パラジウム触媒反応における配位子効果を検討したところ、ホスフィン配位子を添加すると反応の選択性が変化し異なる生成物が得られることを見出した。すなわち、トリフェニルホスフィンを反応系に加えると、触媒サイクル初期段階がヒドロパラデーションからアミノパラデーションにスイッチすると共にエノラートの極性転換が完全に抑制されエナミン型生成物を良好な収率で与えた。さらに、電子不足なトリアリールホスフィンを用いると、このアミノパラデーションよりもオキシパラデーションが優勢になることも併せて見出した。
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