本研究では、金属触媒(ルイス酸)部位と有機分子触媒(水素結合)部位として働く作用点を有し、異なる不斉反応場を自在に制御可能な『動的反応場制御』を指向した不斉分子触媒の開発を目的としている。昨年度までに、ビスアミジン骨格を基盤とするルイス-ブレンステッド複合酸触媒を開発してきた。本年度は、ルイス酸部位、ブレンステッド酸部位と二点相互作用可能な求電子剤としてα-ケトエステルに着目し、斉向山アルドール反応への応用を試みた。ビナフチル母骨格のキラルビスアミジン配位子と亜鉛トリフラートより調製した亜鉛(Ⅱ)-ビスアミジン触媒を用いてイソプロピルアルコール存在下に反応したところ、種々の脂肪族・芳香族置換基を有するα-ケトエステルに対して、高収率・高エナンチオ選択的に生成物が得られた(up to 98% ee)。また、シクロヘキサン母骨格のキラルビスアミジンを複核化配位子として活用し、Et2Znにょるα-ケトエステルの不斉アルキル化反応について検討した。o-MeO基、o-MeS基が導入された芳香族置換基や嵩高い脂肪族置換基を有するα-ケトエステルを用いると、高収率・高エナンチオ選択的に生成物が得られることを見出した (up to 97% ee)。DFT計算や実験検討によって、ビスアミジン配位子:亜鉛:反応基質が1:3:1で構成される反応活性種が推定され、本触媒の複核化の効果として、アルデヒドが共存しても完全に官能基選択的にα-ケトエステルに対してのみ活性を示すことを見出した。
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