研究課題/領域番号 |
15K05507
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
岩澤 哲郎 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (80452655)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 選択的合成 / 四置換アルケン / ハロゲン化 / ビニルシラン / シアノ化 / ヨウ素選択的反応 |
研究実績の概要 |
市販の非対称な単純脂肪族内部アルキンであるフェニルエチルアルキンからわずか3工程で位置及び立体選択的な異種炭素四置換アルケンを単一異性体として合成することに成功した。第一に、ヨードトリメチルシランとN-ブロモスクシンイミドを用いて発生させたin situ一ヨウ化臭素に対して、市販のフェニルエチルアルキンを作用させて(E)-(1-bromo-2-iodobut-1-en-1-yl)benzeneをほとんど単一異性体としてグラムスケールで調製した。次に、この臭化ヨウ素体にシアン化銅試薬を量論量用いてRosenmund-von Braun反応を行うと、単離収率27%でヨウ素原子部位だけがシアノ化された目的物である (E)-2-(bromo(phenyl)methylene)butanenitrileが得られた。さらに続いて、この化合物の臭素部位を汎用なクロスカップリング反応を用いて様々な炭素置換基に簡単に変換し、結果として異種炭素四置換アルケンを単一異性体として6つ新規調製できた。一連の3工程の合計収率向上を目指してビニル位のヨウ素原子選択的なRosenmund-von Braun反応の改良に焦点を当てた実験を数多く行い、それら実験結果からこのRosenmund-von Braun反応の反応機構や反応経路の詳細を知ることができた。明らかになった反応機構とは、銅が炭素-ヨウ素原子間に酸化的付加してできるビニル銅中間体が還元的脱離して目的物を与える経路と、β脱離してフェニルエチルアルキンを与える経路との二通りの経路が存在するというものである。生じたフェニルエチルアルキンは、同時に付随して副生した一臭化ヨウ素と反応して異性体混合物(二種類のE体)を与える。ここが目的物の収率を低減させる主たる原因であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が独自に開発した「ジハロビニル型四置換アルケンテンプレート」を足場として、ヨウ素および臭素の順に炭素置換基へと変換し、最終的に異種炭素四置換アルケンを三工程で新規に6サンプル合成することができた。これは、我々が当初目標としていた「高生産的なテンプレート型合成法による未踏な異種四置換アルケン合成」を達成した初めての成功例である。効率はまだまだ低く今後改善する余地が大変多く残されてはいるが、1年目である程度の成果を出すことができた。その視点で、おおむね順調に進展していると考えている。当初計画していた反応系中発生型のハロシアンはことごとくうまくいかず、また、NMR実験による観察においてもうまくいく形跡は認められなかった。そのため、手元にあるジハロビニルテンプレート分子を足場として、ハロゲン選択的な化学変換に焦点を当てた課題の達成、即ち、異種四置換アルケンの簡便な自在合成を目指すことにした。実践したヨウ素選択的な直接シアノ化(Rosenmund-von Braun反応)は異性体の発生によって効率は下がってしまったが、誘導体の単結晶X線結晶構造解析の成功によって異性体および目的物両方の分子構造が決定できたので、本直接シアノ化の分子基盤が確立された。したがって、我々の提唱する高生産的テンプレート法が異種四置換炭素オレフィン合成に対して効果を持つことを実証できたと考えている。また、新規合成した異種炭素四置換アルケンのうちの二つはピレン環をもつので、紫外可視光吸収域を調べる実験も行うことができた。これら化合物は特長のあるデータを示さず残念な結果ではあったが、新規調製した四置換アルケンの物性調査を通した材料開発という実験的道筋をつけることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
我々が独自に開発したもう一つのテンプレート分子、即ち、臭素―塩素―ケイ素ビニルテンプレートを用いた異種炭素四置換アルケン合成を行う。ただ、この時、三つのヘテロ元素の活性化の順序が問題となる。最も素直な順序は、臭素を第一に活性化する方策であるが、これは数多く実験的に試したが、ことごとくベータ炭素脱離して元のシリルエチニルアレンに戻ってしまった経緯がある。そこで、今後の研究推進に向けた具体的な方策として、ケイ素原子を第一に活性化して炭素置換基に変換した後に、臭素原子を炭素原子に変換し、最後に塩素原子を炭素原子に変換する方策を取る。この方策・合成経路を支持するものとして、臭素-塩素ビニルテンプレートを用いた三置換オレフィン合成が過去に他のグループからの報告例として所在し、そのテンプレートにおいては臭素原子と塩素原子がビシナル位のsyn側に結合していた。即ち、我々のテンプレートにおいてケイ素原子を第一に炭素型置換基に変えてしまえば、ビシナル位のsyn側に結合した臭素原子と塩素原子はおそらくクロスカップリング等を用いて炭素型置換基に容易に変換できるであろうと考えている。そのため、トリイソプロピルシリル基のフッ素試薬による活性化(シリケート化)とそれに続くシアン化銅による酸化的付加を契機としたビニル位へのシアノ基の導入を目指す。反応条件の最適化に向けた通常の実験化学的なデータ収集を行う。これがうまくいかない場合は、もう少し活性化されたシリル基、たとえばトリエトキシシリル基やジメチルメトキシシリル基をビニル位にもつ基質を用いてケイ素原子を活性化し、シアン化銅によるシアノ基の導入を目指す。これさえうまくいけば、あとは臭素原子に薗頭反応、塩素原子に鈴木宮浦反応を施す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じたのは、(E)-(1-bromo-2-iodobut-1-en-1-yl)benzeneを用いたRosenmund-von Braun反応を実施するという実験状況が生じたためである。当初計画では、内部アルキンの系中発生型ハロシアノ化を見いだすことができると考えていた。しかしながら、反応条件の細かな検討を実施しても全く何も反応が起きないという状況に陥ってしまった。また、本研究の土台となった反応は極めて迅速に進行するため、反応過程の追跡がままならず、反応機構の詳細を把握することが極めて難しかった。そのため、トリメチルシリルシアニドとN-ハロスクシンイミドとの反応を進行させるための作業仮説を立てることが容易ではなく、ブラックボックスに近いような状況に直面してしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、このシアノ化および反応機構の理解にある程度の進捗が認められたので、鋭意(Z)-(1-bromo-2-chloro-2-arylvinyl)trimethylsilaneの活性化による異種炭素四置換アルケン合成に対する取り組みを継続する計画である。特に臭素選択的シアノ化の効率化とに力点を置いた研究費の充当を計画している。
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