最終年度に実施した研究の成果として、臭素-臭素―ケイ素ビニルテンプレートのベータ位臭素選択的な炭素-炭素結合形成反応の実現があげられる。ケイ素原子のアンチパラレル結合が相当に緩んでいるのではないかという仮説を立て、これを検証する実験を経て2つの臭素のうちの片方だけを位置選択的に活性化することができた。このことは、当初の研究目的や研究実施計画として立てた内容を十分に補完するものであると考えている。即ち、炭素-炭素三重結合に対して直截にハロシアノ化等はできなかったが、一旦系内臭素をアルキンにシン付加させてその上で片方の臭素だけをシアノ基に置換できた。低収率ではあるが、シアノ基のみならず他の炭素置換基も導入することが出来るため、当初の目的を十分に達成できたものと考える。また、ヨウ素-臭素ビニルテンプレートと銅試薬を用いたクロスカップリング反応において、ハロゲン脱離が生じる過程について反応機構の観点から精査する実験研究も実施し、一定の有意義な知見を得ることができた。これら結果の意義は、本法が異種炭素四置換アルケンを自在に合成できる方法に十分に展開可能である点に所在する。含ビニルハロゲン型多置換アルケンのハロゲン活性化は異性体の抑止が焦点になるが、本研究における選択的活性化の達成や反応機構の理解はこの焦点に見合うものであり、続く臭素原子やケイ素原子の円滑な活性化にも繋がる重要性を示唆している。特に、パラジウム金属を用いたクロスカップリング反応を臭素-臭素―ケイ素ビニルテンプレートやヨウ素-臭素ビニルテンプレート等に用いると、どうしてもハロゲン脱離が起きてしまうが、銅元素を用いたクロスカップリング反応ではハロゲン脱離を有意に抑制して望みの炭素-炭素結合を形成することが出来る。この特長を異種炭素四置換アルケンの自在合成に活用し続けたい。
|