研究実績の概要 |
(E)-, (Z)-立体固定された多置換オレフィン類は,有機合成上極めて重要な合成素子である.多くの合成法が開発されてきたが,類縁化合物を出発原料とする (E)-, (Z)-パラレル合成は稀有といって良い.本課題では,同一の入手容易なβ-オキソエステル(β-ケトエステルおよびα-ホルミルエステル)からプロセス化学を志向したパラレル手法による三・四置換 (E)-,(Z)-α,β-不飽和エステルの合成方法論を開拓する.市販でないβ-オキソエステルの調整には,独自のTi-Claisen 縮合などを駆使する. 萌芽となる実用的な三置換α,β-不飽和エステルの (E)-, (Z)-立体補完的合成法を報告している(Org. Lett. 2009(SYNFACTSに採用), Org. Lett. 2010).最近,エノールホスホナートを経由する立体補完的合成を報告した(Org. Biomol. Chem. 2015).さらに,α,β-またはβ,β-ジアリール三・四置換α,β-不飽和エステルの立体補完的パラレル合成およびSSRI医薬Zimelidineの分割法によらない初の (E)-, (Z)-立体補完的パラレル合成に成功した(Chem. Eur. J. 2015). 加えて,各種 (E)-, (Z)-四置換α,β-不飽和エステルの基質一般性の高い方法論も確立し,制癌剤Tamoxifen の初の (E)-, (Z)-立体補完的パラレル合成にも成功した(Synthesis, 2016, ChemistryOpen. 2016).なお,内容は,有機合成化学のハイライト誌(年間約 40 件)である Synform 誌(2017)に掲載された. これらの研究過程で,構造は比較的単純であるが,従来煩雑合成を要した2つの有用シントンの実用合成法を見出し,Organic Syntheses 誌に2件提案できた.その1件掲載済み(2016),1件印刷中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べたように,当研究室では一貫して,市販または独自のTi-Claisen 縮合にて調整容易なβ-オキソエステル(β-ケトエステルおよびα-ホルミルエステル)を基質とする独自反応を開発中である.本課題および関連する派生研究において,この2年間で1件の速報, 6件のフルペーパーを公表した.さらに,これらの一部内容は,有機合成化学のハイライト誌(年間約 40 件)である Synform 誌(2017)に掲載された. ポイントとなる知見は以下のとおりである. 1.基質となる多様なβ-オキソエステル調整法を提示できた. 2.エノールトシラートがエノールホスホナートに比べクロスカップリングパートナーとして優れる.すなわち反応性,アトムエコノミー,調整反応剤の価格・簡便性などの多面においてである. 3.しかしフル置換エノールトシラートの調整法に難があった.そこで,この調整法を回帰的に再検討し,十分実用的な方法を見出した. 4.最終目標である (E)-, (Z)-四置換α,β-不飽和エステルのパラレル合成において,多くの実施例を提出し基質一般性を高め,SSRI医薬Zimelidineおよび制癌剤Tamoxifen の初の (E)-, (Z)-立体補完的パラレル合成にも成功した.ユーザーフレンドリーな方法論を提示できたと考えている. 派生研究として,Ti-Claisen縮合及びTi-直接アルドール反応を基軸とする,alternaric acid及び (-)-azaspireneの不斉全合成を達成できた(Chem. Commun. 2013, Eur. J. Org. Chem. 2016).さらに (R)-podoblastin-S and (R)-lachnelluloic acidの不斉全合成も達成した(Molecules 2016, (asymmetric syntheses 2016, invited)). これらの研究過程で,単純であるが,従来煩雑合成を要した2つの有用シントンの実用合成法を見出し,Organic Syntheses 誌に2件提案できた.
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