研究課題/領域番号 |
15K05514
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
黒川 秀樹 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (50292652)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オリゴメリゼーション / α-オレフィン / 後周期遷移金属錯体 / 固定化触媒 / 不均一系触媒 / ニッケル錯体 / 鉄錯体 / コバルト錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では、エチレンの低重合(オリゴメリゼーション)に高活性な触媒として、モンモリロナイトやフッ素四ケイ素雲母などの層状粘土鉱物の層間にコバルトあるいはニッケル錯体を固定化した不均一系触媒を開発することであり、具体的にはコバルトやニッケルで交換した層状粘土鉱物と配位子の原料からone-potで新規な不均一系エチレン低重合触媒を調製可能な自己組織化調製法を確立することを目的とした。 平成27年度の研究は、おおむね計画に沿って実施したが、イミノピリジン系ニッケル錯体を粘土鉱物層間に固定化した触媒では、オリゴマー生成に有利な50℃以上の重合温度で触媒活性が低かったことから、骨格がリジッドであるアセナフテン骨格を有するα-ジイミン系配位子およびイミノキノリン系配位子に変更して検討を行った。 α-ジイミン系ニッケル触媒においては、ニッケル周りの立体障害を低下させると、生成するオリゴマーの分子量が低下して目的物の収率を上げることができるが、反面、触媒活性が低下することが知られている。そこで配位子上に電子吸引基であるフルオロ基を導入した触媒を調製して検討した結果、イミノフェニル基のオルト位にフルオロ基を一つ導入した配位子系でオリゴマー収率と触媒活性の向上が達成できた。また、複数の電子吸引基を導入すると、触媒活性が大きく低下することも分かった。得られたオリゴマー成分には、異性化により生成した内部オレフィン類や分岐オレフィン類を含んでおり、直鎖α-オレフィンを選択的に生成する鉄およびコバルト触媒の特性と大きく異なっていた。 イミノキノリン系ニッケル触媒では、活性は他の触媒系と比べてやや低いものの、分岐構造を有するオレフィン類への選択率が高く、生成物分布に特徴のある触媒系であることから、平成28年度も継続して検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フッ素四ケイ素雲母の層間にコバルトおよびニッケル錯体を固定化した触媒を自己組織化法により調製し、得られた触媒についてエチレンの低重合により評価した。当初、触媒調製時にコバルトあるいはニッケルで交換したフッ素四ケイ素雲母とビス(イミノ)ピリジンあるいはα-ジイミン配位子の原料を比較的低濃度で接触させて触媒を自己組織化法で調製していたが、得られたコバルトおよびニッケル触媒の活性が安定しなかった。その原因を調べるために、接触時の濃度を変えて検討を行ったところ、何れの触媒においても高活性な触媒を得るためには一定濃度以上で配位子原料を接触させる必要があることが分かった。これまでは小スケールでの調製であったために特に問題が起きなかったが、スケールアップした際に問題が顕在化した。この知見は触媒の安定的な調製には必要不可欠な情報であり、触媒調製技術の向上に繋がる成果である。 触媒調製時の濃度条件を最適化した後、配位子骨格の異なるα-ジイミンニッケル(II)錯体をフッ素四ケイ素雲母層間に固定化した触媒を調製した。得られた触媒を用いてエチレン低重合を行ったところエチレンオリゴマーが高収率で得られたが、化学原料として利用価値が高いα-オレフィンに加えて、内部オレフィンの生成も顕著であり、さらなる骨格の最適化が必要と分かった。続いて錯体の電子状態と触媒活性、オリゴマー生成への選択性について検討するため、電子吸引基であるフルオロ基およびトリフルオロメチル基を導入したα-ジイミンニッケル系触媒を調製して検討した結果、弱い電子吸引基を導入すると活性が向上することが分かった。 また、並行して実施したイミノキノリン系ニッケル触媒の調製と評価においては、本触媒系が分岐構造のオレフィン類への選択性が高いことが分かり、特異な生成物分布を持つ興味深い触媒系であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況に記載したように、本年度検討したα-ジイミン系ニッケル錯体をフッ素四ケイ素雲母層間に固定化した触媒では、生成するオリゴマーの分子量が比較的高く多量のワックス成分を生成すること、無視できない量の内部オレフィン類が生成したことを考え、配位子骨格の再検討が必要と判断した。 そこで平成28年度は、研究計画に従って、分岐構造のオレフィン類への選択性が高いことが明らかとなったキノリン系配位子およびフェナトロリン骨格をベースとしたニッケル触媒を自己組織化法で調製して評価する。これまでの検討からイミノキノリン系骨格の触媒では、60分以上の誘導期が観測されており、複雑な活性化メカニズムの存在が示唆されている。より高活性な触媒を開発するために、誘導期の発現メカニズムを解明する。 平成28年度からは研究計画に従ってコバルト系触媒の開発にも着手する。コバルト系触媒では、フェニル基のオルト位にトリフルオロメチル基を導入したビス(イミノ)ピリジン系配位子でのみ高活性が得られており、より高活性な触媒を開発するためには、活性を支配している因子の解明が必要不可欠である。そこで、本年度は、まず、電子的環境の異なる配位子系を用いて一連の触媒を調製し、その触媒活性を評価することで電子的効果と触媒活性の関係の解明を目標とする。本触媒調製法は、簡便かつ迅速に触媒調製ができる特徴を有しており、この特長を活かして効率よく触媒特性と触媒活性の関係を明らかにすることができると考えている。 最後に新規な検討事項として、酸化数の異なる鉄を中心金属とするビス(イミノ)ピリジン鉄系触媒の検討も行う。平成27年度に実施した予備検討では、酸化数の異なる鉄触媒において触媒活性に大きな違いが見られることが分かっており、中心金属の酸化数をコントロールすることで、オリゴマー生成に有利な触媒の開発を試みる。
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