研究課題/領域番号 |
15K05517
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
伊津野 真一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50158755)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キラル高分子 / シンコナアルカロイド / スルホンアミド / スクアラミド / シンコナ-ペプチドハイブリッド / 有機分子触媒 |
研究実績の概要 |
スルホンアミドおよびスクアラミド構造を分子内に有するシンコナアルカロイド誘導体は、様々な不斉反応の不斉有機分子触媒として作用する。これら不斉触媒をさらに高選択的、基質特異性を向上させるために、触媒部位のコンフォメーションを最適化する必要がある。本研究では、これらシンコナアルカロイド誘導体の高分子化することにより、繰り返し単位の構造を調製し、触媒活性部位のコンフォメーションを最適化する手法を開発している。さらに、高分子不斉触媒の繰り返し単位にペプチドを組み込み、シンコナ-ペプチドハイブリッド化により、ペプチドの構造を反映して、触媒活性部位のコンフォメーションのさらなる微調整を可能にできる。 28年度は、スルホンアミドおよびスクアラミド構造を分子内に有するシンコナアルカロイド誘導体の高分子化、アミノ酸の導入によるペプチドハイブリッド化法の確立、高分子不斉触媒の構造変化の不斉反応へ及ぼす影響について詳細に検討した。シンコナアルカロイド誘導体の高分子化のために用いる反応として溝呂木-Heckカップリング反応を採用した。この方法は、シンコナアルカロイドが有するビニル基を重合反応に有効に用いることができ、これまでにない新しいキラル高分子合成法を確立することができた。 ペプチドをキラル高分子触媒の繰り返し単位に組み込むために必要な反応条件を決定するために、アミノ酸を組み込む反応について詳細に検討した。ジメチルスクアレートにヨードフェニル基を有するアミノ酸を導入し、アミノ化したシンコナアルカロイドを導入することで、ビニル基とヨードフェニル基を分子内に有するモノマーを合成した。溝呂木-Heckカップリング反応条件下、キラルモノマーは自己重縮合を行いキラル高分子へと容易に導くことができた。これら高分子の不斉触媒活性は高く、一般に対応する低分子触媒より高い不斉選択性を示すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スルホンアミドおよびスクアラミド構造を分子内に有するシンコナアルカロイド誘導体の高分子化法について様々な重合条件を検討し、多くのモノマー構造に適応可能な重合法として、溝呂木-Heck重合が適していることを見出した。溝呂木-Heck重合の反応条件についても最適化を試み、適切な重合条件を確立できた。ペプチドを導入するために、まずアミノ酸を用いて導入法を種々検討した。ヨードフェニル基を有するアミノ酸を合成し、スクアラミドに組み込むことに成功した。この方法はペプチドの導入にそのまま用いることができる。ペプチドのアミノ酸配列はその構造に大きな影響を与える。アミノ酸配列と構造との関係についても検討を重ね、適切な配列設計が可能になった。 本研究で得られたシンコナアルカロイド誘導体高分子触媒は、不斉Michael 付加反応において優れた触媒特性を示すことを明らかにした。特にハイブリッド化されたアミノ酸の種類は非常に重要であり、アミノ酸を変えることにより選択性も変化することが分かった。気質により最適なアミノ酸構造が存在することも明らかとなった。さらに、特定の構造を形成し易いペプチドをハイブリッド化することにより、基質特異性、立体選択制の優れた高分子触媒を開発することができる。 高分子不斉触媒は、多くの有機溶媒に不溶であり、反応終了後の分離回収が極めて容易である。回収した高分子触媒は何度でも繰り返し使用が可能であり、触媒活性、選択性を低下させることなく再使用することができた。
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今後の研究の推進方策 |
スルホンアミドおよびスクアラミド構造を分子内に有するシンコナアルカロイド誘導体の高分子にペプチドを組み込みハイブリッド化するために、ペプチドのアミノ酸配列設計を行う。我々は、特定の構造を高度に取りやすい配列を探索する手法を確立しているので、それを用いて、比較的残基数の短いペプチドで構造を安定に形成する配列を選定する。合成の簡単なペプチドについては、液相法で合成し、それ以外はペプチド合成装置を用いて各種ペプチドを合成する。これまでにアミノ酸の導入で得た知見をもとに、ペプチドにそれを適応して、シンコナアルカロイドとペプチドのハイブリッド化を行い、さらに溝呂木-Heck重合法を利用して高分子化する。得られたキラル高分子であるシンコナ-ペプチドハイブリッド高分子の構造について詳細に調査し、触媒活性、基質特異性、立体選択性等の高分子不斉触媒としての性能を詳細に評価する。 ペプチドハイブリッド化して得られる高分子触媒は選択的基質取り込みに適しているので、反応を加速できる可能性もある。適度な触媒活性を有する高分子触媒は、回収、再利用が可能であるだけでなく、その不溶性を利用して、カラム等に充填して反応に使うことができる。現在すでにこのような連続的フローシステムの可能性について調査を進めているが、シンコナーペプチドハイブリッド不斉触媒について、フローシステムの反応条件の最適化を進め、望みの光学異性体を連続的に合成するプロセスを確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究目的のキラル高分子合成法に関して、新合成法を開発したため、物品購入費を当初予算より低く抑えることができた。他研究室との共同研究の実施により、一部の装置使用を共通で実施し、装置の消耗品費を効率的に支出できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の最終年度にあたって、これまでの研究成果を広く公表するため、国際会議への論文発表を行う。代さんの一部を国際会議出席費用に使用する。他は、当初予算通りの使用を計画している。
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備考 |
EurekAlert (The Global Source for Science News, AAAS) へのプレスリリース10月14日
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