研究課題/領域番号 |
15K05519
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松宮 由実 京都大学, 化学研究所, 助教 (00378853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 会合性高分子 / 粘弾性緩和 / 化学平衡 / 高分子ダイナミクス / Rouse緩和 |
研究実績の概要 |
片末端に会合基を有する非絡み合い鎖という最も単純なモデル系を想定し, その粘弾性緩和に対する会合/解離の影響について考察を行った. 化学平衡にある単量体鎖と二量体鎖が会合と解離を繰り返す過程で, それぞれの鎖の運動モードに相関が生じる. これにより, 会合・解離速度が鎖運動より速い場合には二量体鎖の緩和は加速されること, 解離速度が鎖運動より遅ければ, 単量体鎖の緩和は遅延されることなどを導いた. さらに, 片末端にカルボキシル基を有するポリイソプレン鎖を合成し, その準希薄溶液について, 種々の温度で線形粘弾性と赤外吸収スペクトルを測定した. この溶液中で, ポリイソプレン鎖は非絡み合い状態にあり, かつ会合/解離反応の平衡状態にあると考えられる. 温度を変えることは, ポリイソプレン鎖自身の運動の速さと, 会合/解離反応の速さのバランスを変化させることに対応する. 赤外吸収スペクトルの解析から, それぞれの温度での単量体鎖と二量体鎖の割合を見積もり, ここから会合/解離反応の速さの比を求めた. このデータを用いて, 各温度での線形粘弾性データを解析することにより, 上記の理論的考察により導かれた, 運動モードの相関による二量体鎖の緩和の加速と単量体鎖の緩和の遅延が実際に起こっていることを実験的に確認した. さらに, 会合/解離反応の速さが, 鎖の運動に強く影響を受けていることも明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り, 片末端に会合基を有する非絡み合い鎖という最も単純なモデル系の粘弾性緩和に対する会合/解離反応の理論的考察と, それに対応する実験的考察を行った. その結果, 化学平衡にある単量体鎖と二量体鎖が会合と解離を繰り返す過程で生じる運動モードの相関により, 会合・解離速度が鎖運動より速い場合には二量体鎖の緩和は加速されること, 解離速度が鎖運動より遅ければ, 単量体鎖の緩和は遅延されることが実際の系で起こっていることが確認できた. この結果は, この理論的/実験的考察をさらに複雑な系へ拡張していくための布石となり, 学術的に意義深い.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 鎖が絡み合う場合, 複数の鎖が1点で会合する場合, 両端に会合基を有する鎖の場合, などのさらに複雑な系に対して理論と実験の両面から拡張していく. 具体的には, 前駆体となる単分散直鎖ポリブタジエン(PB) を合成し, その化学修飾によって両端にジカルボン 酸基をもつ acid-end PB 試料を調製する. さらに 3 分岐星型 PB も合成し, 前駆体直鎖 PB とともに参 照試料として用いる. これらの試料に対し種々の温度で粘弾性測定・誘電緩和測定を行う. 得られた データから, acid-end PB 鎖端の解離/結合の時定数と PB 鎖の運動についての情報を抽出する. これらの情報を元に, 末端解離のダイナミクスと解離後の鎖運動の競合を考慮した分子運動モデルを構築し, さらに, 会合点の力学的開裂が緩和に与える効果も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究計画時に想定していたよりもはるかに効率的に実験(試料調製や測定など)が行えた。このため、想定よりも研究費の支出を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は, 次年度分請求額とあわせて, 試料調製と測定のために用いる予定である. すなわち, 単分散直鎖ポリブタジエン(PB) および両端にジカルボン 酸基をもつ acid-end PB 試料, さらに 3 分岐星型 PB を合成するので, そのための試薬購入に充てる. また, これらの試料に対し, 種々の温度で粘弾性測定・誘電緩和測定を行うが, 測定は不活性ガス雰囲気下で行うため, 液体窒素の購入に充てる.
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