研究実績の概要 |
チャネル全体に注入した試料溶液を濃縮 (LVSEP法) したうえで,試料リザーバーから目的成分を供給しながら濃縮 (PAEKI法) を行うマイクロチップ電気泳動 (MCE) 分析において,濃縮に影響を及ぼす因子である電気浸透流 (EOF) 速度の安定性を向上させるため,真空乾燥法によるポリマー修飾について検討を行ったところ,ポリビニルアルコール (PVA) に加え,ポリビニルピロリドンやポリN,N-ジメチルアクリルアミドなど種々の中性ポリマーでも安定な修飾が得られることがわかった。このことから,様々な生体試料に適した表面修飾剤を安定に固定化できるものと期待される。一方,種々のポリマー基板チップに対して真空乾燥法を適用したものの,ポリジメチルシロキサン (PDMS) 以外の材質では安定な修飾が得られないことがわかった。これはPDMSの高い気体透過性によるものと考えられ,今後,気体透過性の低い基板への適用について検討を進める必要がある。 このPVA修飾を施したマイクロチップにおける濃縮効率の向上について検討を行ったところ,チャネル幅が重要であることが明らかとなった。チャネル幅を150, 100, 75 μmと細くしていくと,標準試料の濃縮率は1400, 6400, 38000倍と劇的に増加することがわかった。これは,チャネル幅を細くすることにより,濃縮初期におけるEOF速度が増加し,濃縮した試料のバンド広がりを抑制できたために,ピーク幅が狭くなったことを反映しているものと考えられる。確立した手法をアミノ酸のキラル分析へ応用した。通常のMCE分析ではピークが太く,Leuの分離度は0.75に留まったのに対し,LVSEP-PAEKI分析を行ったところ,非常に細いピークが得られたためにLeuの分離度は1.37に向上した上に,ピーク強度も大きく増強され,濃縮率は2900倍に達した。このことから,本手法が生体試料のMCE分析の高感度化のみならず,分離の向上にも役立つことが確認できた。
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