分子認識にともなう電荷密度変化を直接検出する「バイオトランジスタ」を用いて、生命現象に深く関わるタンパク質の翻訳後修飾を電気的に検出する手法を開発した。本手法は蛍光標識や電気化学標識を用いないラベルフリー検出であり、分析時間の短縮・低コスト化・装置の小型化・高スループット化を実現し、翻訳後修飾のポイント・オブ・ケア診断を志向する。本成果は、ゲノム解析からエピゲノム調節・タンパク質翻訳・翻訳後修飾の解析に至るまで網羅的な生命情報をすべてトランジスタで評価するという統一されたプラットフォームの提供に繋がる。網羅的解析により偽陽性・偽陰性の問題を克服しつつ、可搬型デバイスを用いた医療インフラを必要としない分散化・ユビキタス化を標榜した次世代型医療に直結する挑戦的な研究課題である。 本研究では、遺伝子の転写調節を担うヒストンのアセチル化をモデル系に、分子の電荷密度変化を直接測定することができる電位計測型バイオトランジスタと吸着質量を測定する水晶発振振動子(QCM)を併用し、「電荷」と「重量」という異なる物理パラメータを同時に検出することによって、翻訳後修飾によるタンパク質分子の電荷密度変化をラベルフリーで検出することに成功した。 分子の電荷密度変化からタンパク質翻訳後修飾を検出するという試みは、従来のタンパク質翻訳後修飾の検出法である煩雑な「ELISAアッセイ」や大型装置を要する「質量分析」といった既存の分析化学とは一線を画するものであり、さらに、既存のバイオトランジスタの適用範囲を拡張させるものである。今後、ゲノム・エピゲノム・プロテオームをバイオトランジスタという単一のプラットフォーム上で高速・安価に・その場で統合的に計測して、がんのポイント・オブ・ケア診断や早期診断など先進医療を提供する「医療革新」に繋がることが期待できる。
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