本年度は、昨年度に引き続き以下の3点について検討した。 1)Fe化学種の影響:Mn(II)-FAD錯生成系の至適pHはpH > 9であるが、この条件ではマスキング剤としてEDTAや酒石酸を添加しても、Mn(II)の10倍量ほどFeが存在すれば10 %以上の正誤差を与えた。pHを下げて発色を行わせればFeの影響は軽減できたが、Mn(II)に関する検出感度も大幅に低下した。しかしながら、溶液法をそのまま高感度化できる固相分光法を本錯生成系に適用することで、pHを6.4まで大幅に下げても0.87 ppbと十分な検出感度が得られた。さらにこのpHではEDTAと酒石酸の添加によりMn(II)の10倍量のFeが存在しても定量値に影響を及ぼさないことが確認された。 2)試料の保存法に関する検討:試料水中の微量金属イオンを定量する場合、試料の酸固定が行われるが、この際に目的成分の酸化状態が大きく変化することがこれまで報告されている。そこで試料の保存法に関して検討した結果、試料水をテフロン製の容器に保存すれば、試料採取後少なくとも1週間はMn(II)定量値に変化がないことが確認された。 3)定量値の正確さに関する検討:標準添加法により正確さの検討を行った。試料には、常に環境基準を超えた全Mnが検出される河川水と、その対照として全Mn濃度が常に低い河川水を用いたが、いずれの試料でも回収率はほぼ100 %であり、マトリックス成分の影響を受けることなく定量が行えることが確認された。 正確さが確認された本法を、環境基準値を超えた全マンガンが常時検出される河川水に対して適用したところ、検出されるMn化学種のほとんどがMn(II)であることが確認された。溶解・酸化還元平衡から指針値超過河川に高濃度で存在するMn化学種はMn(II)であると予測されていたが、その可能性が極めて高いことが本研究により示唆された。
|