研究課題/領域番号 |
15K05533
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
會澤 宣一 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (60231099)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 食品の真正証明 / ランタノイド錯体 / NMRキラルシフト試薬 |
研究実績の概要 |
光学異性体を個別に同定するための、クロマトグラフ法やキャピラリー電気泳動法が開発されてきた。しかしながらこれらの方法は混合物である実試料分析においてはシグナルの重なりが分析の妨げになる。また、流動速度は実験条件によって大きく変化するため、標準試料によるシグナルの帰属が必要となる。一方、NMR法は分子中のそれぞれの原子についてシグナルが観測されるため、全てのシグナルが重なることはなく、混合物の分析には適する。また、既知化合物なら標準試料なしで化学シフト値から化合物の同定ができる。そこで、キラルシフト試薬を用いた光学活性体のNMR分析が考案されてきた。しかしながら、現在用いられているキラルシフト試薬は高価な合成多座配位子を有するランタノイド錯体が主流である。さらに、現在通常使用されている超伝導NMR装置は大変高価で、液体ヘリウムや液体窒素を冷媒として使用しているため、維持費も高く、装置を移動して現場で分析することは不可能である。また、磁場が大きいほど、常磁性金属イオンの影響でシグナルの広幅化が顕著になり、キラル分離分析の妨げになる。そこで本研究では、NMR法の利点を食品の真正システムに利用することをめざして、安価な光学活性アミノ酸や有機酸を用いて、分子中に不斉点を複数持つキラル識別能が高い配位子を開発する。さらに、安価な汎用金属イオンを用いたり、磁気異方性が大きいランタノイドイオンを用いて微量の試薬で分析を可能とし、分析コストを下げ、分解能では劣るが、常磁性緩和による広幅化が抑えられる低磁場NMRでも分析可能とする。 本年度は、不斉中心を複数持つ安価な不斉配位子を有する種々のランタノイド(III)イオンのシグナル分離機構の違いを明らかにした。さらに、得られたシグナルの分離、形状を決定するパラメーターを用いて、任意の条件におけるキラルシグナルの分離状態の予測も試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
L-アスパラギン酸のアミノ基をエチレン架橋することにより光学活性配位子を合成し、金属イオンとして、Ce(III)、Pr(III)、Nd(III)、Sm(III)、Eu(III)、Gd(III)、Tb(III)、Dy(III)など様々なランタノイド(III)イオンを用いて、多くのDL-アミノ酸やDL-有機酸の1Hおよび13C NMRシグナルを分離した。 NMR キラルシフト試薬によるシグナル分離機構は、キラル錯体に配位した D体とL体の化学シフト(δb)の違いと錯形成平衡定数(K)の違いに起因する。そこで、様々なランタノイド(III)イオンについて実験的にKとδbの値を求めた。その結果、δbの差がキラル分離に対して支配的である金属イオン、Kの差がキラル分離に対して支配的である金属イオン、さらにそれらの両方の要因が寄与している金属イオンが分類できた。この分析結果から、金属イオンによってキラル分析できる適した基質濃度範囲を明らかにすることができ、また、金属イオンの種類を選ぶことによって、広範囲の基質濃度で分析可能であることが明らかになった。 しかしながら、正確なδbとKの値を導出するためには、金属イオンに配位していない基質の化学シフトが必要である。これまで、純粋な基質の化学シフトをこれに充てていたが、配位していない基質の化学シフトが、共存する金属イオンの影響で変動する場合があることが判明した。そこで、金属イオン存在下で基質濃度を無限大に外挿する方法で、配位していない基質の化学シフトを全て求め直し、δbとKの値を再導出することとした。このことを考慮すると、研究は若干遅れているいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、金属イオン存在下で基質濃度を無限大に外挿する方法で、配位していない基質の化学シフトを全て求め直し、各金属イオンについて配位した基質のD体とL体の化学シフト(δb)の値と錯形成平衡定数(K)の値を再導出する。得られたδbとKの値から、任意の濃度におけるDL-体のシグナル分離幅を予想し、さらに線幅の基質および金属イオン濃度依存性から任意の濃度における線幅を予想し、任意の濃度条件における分離シグナルの形状を予測する研究を手掛ける。 合成したキラルシフト試薬について、混合物の一斉分離や実試料への応用を試みる一方で、不斉触媒等に有用である不斉ホスフィン化合物のキラル分離と光学純度の評価にも応用を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)金属イオン存在下で光学活性な基質のNMRスペクトルを予測するためには、金属イオンに配位していない基質の化学シフトが必要である。これまで、純粋な基質の化学シフトをこれに充てていたが、配位していない基質の化学シフトが、共存する金属イオンの影響で変動する場合があることが判明した。そこで、金属イオン存在下で基質濃度を無限大に外挿する方法で、配位していない基質の化学シフトを全て再測定することにした。このために、当初の研究計画からの遅延が生じ、予定していた試薬の購入費が減少したため、次年度使用額が生じた。
(使用計画)再測定に並行して、当初予定していたスペクトルの再現実験を全て行うため、試薬費と測定料で繰り越した金額を全て使用することになる。
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