本研究は、大気圧下で原子状水素(水素ラジカル)を発生させ、種々有機化学分子およびアラミド系ポリマーなどの強靱な有機材料に作用させ、その反応性を調べることである。特に、最小サイズのラジカル種である水素原子が付着することで有機分子および有機材料がラジカル種に変換され、分解などの反応を起こすことを調べることを目的とした。研究は二段階に分け、一段階目は、大気圧下で水素ラジカルを発生させることのできる機器を開発することを目的とした。本目的のために、高出力紫外光ランプを備え水素分子から水素原子を解離生成させる装置を開発した。性能確認のための特性反応系を確立するために、生成した水素原子をフッ素樹脂表面に作用させ、気相フッ酸(HF)の生成を確認した。大気圧下でのフッ酸生成を確認するために、微量検出が可能な大気圧イオン化質量分析計を用い、大気イオンとの付加反応体の検出に成功した。本研究成果は、まず発明届けによって特許申請を行った(特願2015-111987、特開2016-222508)。 上記の大気圧下での水素ラジカル生成装置を用い、フッ酸検出を水素ラジカル生成の特性反応系としてその性能評価を実施した。大気中での水素ラジカルの移動距離は約140mmであると評価された。さらにフタルアミド系樹脂であるケブラー繊維に水素ラジカルを作用させ、その分解生成物の検出を試みたが、分解物はほとんど観測されなかった。これは、ケブラー繊維は分子内水素結合によって水素ラジカル付加部位であるカルボニル酸素がプロテクトされているため、水素ラジカルに耐性があると判断された。 さらに、フッ酸生成量を評価するため、フッ酸クラスターの生成を大気圧イオン化質量分析計で確認したところ、フッ酸の三量体まで結合したクラスターが生成したこと確認した。しかし、水素ラジカルの反応性についてはまだ未確定なことが多いと判断した。
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