研究課題/領域番号 |
15K05546
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
江坂 幸宏 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (70244530)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | CEオンライン濃縮注入 / オンライン錯体化 / 発がんリスクマーカー / 損傷DNA / ナノESI-MS / ESI効率 |
研究実績の概要 |
28年度は、前年に構築したCE濃縮注入‐オンライン錯体化‐ESI-MS検出の原理を使って、DNA試料から飲酒由来の損傷体を検出する実用手法の開発を行い、調製したモデル損傷DNAから損傷体検出を行うこと、一方で、分析原理を、更なる高感度化と高実用性の観点から発展させることを計画した。 牛胸腺DNA(CT-DNA)を素材に、分析法評価のための標準損傷DNAの調製を行った。DNA中の損傷グアニンを、アセトアルデヒド(AA)と試薬の添加により発現させた。損傷頻度は、AAの反応濃度、及び加温急冷による一本鎖への解離を組み合わせて良い再現性で調節可能であった。CT-DNAは、A-T : G-C比率が分かっており、酵素反応の定量性を評価できる。ヌクレアーゼS1、ヌクレアーセP1は損傷部位を基質としない一方、ヌクレアーゼBal 31は定量的に損傷部位を切り出すことが判明した。これら基礎検討を元に、モデル損傷DNAから、Bal31による酵素反応前処理を行い、本法での、実分析に近い状況での、損傷塩基の検出に成功した。 分析手法面での進展は、まずCE濃縮時のリザーバー体積と電極の配置の最適化による導入効率(=使用試料に対する導入量の割合)の向上があげられる。1 mLエッペンドルフでの注入は3-5%程度であるが、20 μLで直線的なチューブでの導入は80%程度まで改善でき、実質感度で1ケタ以上の向上を達成できた。一方、本手法の手技の複雑さ、再現性の問題を解決するために、錯体化を伴わず、検出形態をイオン化効率の低いヌクレオチドからヌクレオシド、塩基へとシフトすることも検討した。これらの形態のイオン化効率を詳細に比較し、塩基、ヌクレオチドが、ヌクレオチドより8倍程度イオン化効率が高いことが判明した。ヌクレオシド、塩基が溶液内で荷電する環境でEKSできるか現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は、実分析への課題の解決に注力した。この面では、順調に進展したといえる。実試料分析の一つとして計画しているALDH2マウスDNAの分析は最終年度に行うこととした。分析手法面での進展は、更なる高感度検出にむけた基礎的な技術開発面で行われ、最終年度以降の計画実現のための重要かつ必要な知見を得ている。一方、当初計画から大きな目標としているナノESI化への取り組みは最終年度へ持ち越した。これは、前年度に判明したEKSに用いる泳動液によるイオン化干渉に対するシース液の正の効果を超える(ナノESI採用時の)対策を見出せなかった点が主な理由である。 実用分析法の構築には、分析対象モデルとなる標準試料が必須であると考える。今回の損傷体の分析では、最終的に目的損傷塩基を有するヌクレオチドに変換するが、この際に酵素反応を利用し、そのヌクレアーゼが損傷体を基質として認識し、定量的に加水分解することを確認する必要がある。また、CT-DNAはその塩基組成が既知であるため、損傷体の分解が定量的であることを確認できる。実際に、検討した3種のヌクレアーゼのうち、1種類のみがこの要件を満たした。これらの点で、損傷DNA分析にとって必須な知見を提供できたと考える。また、実際の加水分解試料はそのままでは本法の濃縮注入ができないことが分かり、精製のプロセスを導入した。これらの手法の発展は現在進行中であり、最終評価には至っていない。ただし、各ステップでの改良は進んでいる。EKSの導入効率向上により貴重な生体試料の実質的な感度向上につながる成果を得た。また、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基のイオン化特性を確認し、より操作しやすい汎用的手法開発につながる重要な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である29年度は、これまでに進展させてきたCE濃縮注入-Phostag錯体化-ESI-MS法を実試料、アルコール供与飼育されたALDH2マウスDNAの分析等、に適用することを目指す。そのために、高倍率CE濃縮注入を可能にし、コンタミネーションのない、高効率での精製が可能な固相チップを作成して、これを用いる計画である。また、将来の人の血液分析を想定した、動物血液からのDNA抽出前処理法、損傷体検出を検討する。 また、当初計画のノンコーディングRNA検出は、ナノESI化による飛躍的感度向上に課題が残る現状では、29年度中の到達が難しいと判断された。一方、RNAの損傷の発生も、DNA同様に日常的に発生しているはずである。生命活動のレギュレーションを担当するRNA損傷は、体調の不良や疾病への関連上重要な研究対象と考えられる。従って、本手法のRNAの損傷へと対象を拡大した整備を行っていく。 並行して、28年度に着手した、手法の自動化、手法の高感度化、ヌクレオシド、塩基形態での検出の検討を行い、随時、上述の実分析検討に反映させる。また、本法のナノESI化への取り組みとして、28年度に発注したナノESIインターフェイスを使ったインフージョン実験やCE-MS実験を行い、高効率検出の土台となる検討とし、本法へのナノESI法の結合を図っていく。さらに本法のμチップ化への基礎検討として、27年度に導入した高圧電源と所有の非接触型電気伝導度検出ステージからなるμチップ電気泳動装置でのEKS濃縮とそれに続くゾーンの移動(MS導入へのプロセスを意味する)を検討する予定である。 そして、MS/MS法の導入を検討する。CE装置と本学所有MS/MSシステムへの結合が可能であり、まず、FIAでのPhostag錯体の娘イオンの調査から行い、最終的にCE-MS/MS法での感度向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加費、旅費(国内)を大学からの支給金で賄った結果、この残金が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度であるので、本計画における成果を国際会議で発表することにし、その参加費及び滞在費に使用する予定である。発表学会は、高性能液相分離及び関連技術に関する国際会議(HPLC2017)(チェコ共和国プラハ開催 会期2017年6月18-22日)である。なお、渡航費(航空運賃)は、岐阜市の予算に申請して認められた。
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