本研究では、近赤外波長域に振動回転遷移を持つ分子の、狭線幅かつ広帯域のスペクトル線を短時間に記録する分光方法を開発することが目的である。波長1.6マイクロメートル帯域において、光周波数コムを分光光源として直接使用してこのような分光を行う。 光周波数コムは繰り返し周波数が正確に制御された超短パルスモードロックレーザーであり、広い波長帯にわたって等間隔に離れた多数の周波数で同時発振するレーザーである。すなわち、数10万個のわずかに波長が異なるレーザーを同時に発振させ、かつその発振周波数を正確に制御していることと同等である。この特徴をレーザー分光用の光源として直接利用する。光周波数コムの光を、分子気体が封入されたガラスセルに透過させ、透過光強度を各周波数成分ごとに測定し、気体分子の吸収スペクトルを得る。 本研究の1年目・2年目では、光周波数コムの各周波数成分を効率よく読み取る手段として、連続発振レーザーと高速光検出器を使用する方法を確立し、それによって本研究の目的が達せられることを示した。最終年度となる3年目(本年度)では、さらに高分解能な分光を目指すために、光周波数コムの各周波数成分の間隔(パルスの繰り返し周波数)を小さくすることを目指した。そのような光周波数コムを直接製作するのは技術的に困難なので、本研究では電気光学変調器による光の位相変調による方法を開発した。結果として、モード間隔を1/16や1/64など、任意の間隔にすることができるようになった。強度変調による方法と比較して、この方法では光周波数コムのパワーをロスしないため、効率が良い。 モード間隔を狭くした位相変調光周波数コムを使用して、波長1650nmにあるメタン分子の吸収スペクトルを測定した。この結果、位相変調光周波数コムでもスペクトルの観測ができ、本研究で開発した方法が有効であることを示すことができた。
|