研究課題/領域番号 |
15K05550
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
田代 充 明星大学, 理工学部, 教授 (40315750)
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研究分担者 |
吉村 悦郎 放送大学, 教養学部, 教授 (10130303)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子間相互作用 / タンパク質 / リガンド / 核磁気共鳴法 / フッ素化合物 |
研究実績の概要 |
H28年度は、「含フッ素化合物における結合部位の特定化方法の開発」を主眼に置き、研究課題の遂行に努めた。リガンド分子内の1Hに関しては、1H STD法において照射時間を変化させながら、リガンドの1Hシグナルの強度変化をモニターし、強度変化の傾きよりレセプター分子(タンパク質)との結合に関与する1Hの特定化を行った。この場合、シグナル同志が重ならいことが条件となるため、観測対象に制限がある欠点がある。他の方法として、レセプター分子の選択照射ON/OFFにおけるリガンドの1Hの縦緩和時間をそれぞれ測定し、緩和速度の差を比較することにより結合に関与する1Hの特定化する手法も試みた。本法も他のシグナルと重なっている場合には適用できない。上記の方法は1H検出法である。対象が含フッ素化合物であるため、観測対象核である19Fに着目し、1H照射-19F検出 STD法の条件検討も併せて行った。1H照射-1H検出のWaterLOGSY法およびSTD法と比較して、19F検出での感度がかなり低くなることが確認された。19F核が、1H同様に高周波核であるため、当初は感度が問題になることはないと予想していたが、実際にトライアル測定した結果、1H検出の2-3倍、感度が低下することが明確になった。試料溶液のpHなどを変化させ、再度、1H照射-19F検出 STD法の条件検討を進める予定である。先ずは、試料溶液濃度を2倍程度に上げ、シグナルが十分に認識できる状態にして、照射時間可変の測定を行う。含フッ素化合物として、エノキサシンおよびロメフロキサシンを使用する。エノキサシンおよびロメフロキサシンには、1分子中に2原子のフッ素があるため、両原子のレセプターへの近接状況を相対的に比較することが可能となれば、1H以外の貴重な情報が得られる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レセプタータンパク質と含フッ素化合物との分子間相互作用解析を行っているため、NMRの観測核である19Fに着目し、選択性の高い検出法の開発を進めている。先ず、1H照射-19F検出 STD法から検討を始めて、高感度化の条件検討を行った(Pharm. Anal. Chem. 2016, 2, 111;J. Res. Anal, 2016, 2(3), 73)。19F検出STD法は可能になったが、1H照射-1H検出のSTD法と比較すると、19F検出での感度がかなり低くなることが確認された。1H同様に、19Fが高周波で共鳴する原子核であるため、1Hと同等の感度が得られるものと予想していたが、数種類の試料溶液で1H照射-19F検出 STDスペクトルを測定した結果、1H検出の約2-3倍程度の感度低下が確認され、当初予期しない結果となった。1H照射のパルスシーケンス、および照射周波数の条件検討が必要になるものと考えられる。 19F検出WaterLOGSY法のパルスシーケンスを作製し、ジフルニサル―ヒト血清アルブミン溶液でスペクトル測定を行った。ジフルニサル中の2つの19Fシグナルが観測され、今後、どちらのフッ素原子がより結合に直接的に関与しているかの解析が必要になる。1次元19Fスペクトルは1H同様に、高感度に測定できるため、19F緩和時間の結果を分子間相互作用解析に活かす工夫を行った。1H選択的照射、つまりタンパク質のみの選択的照射を最初に行い、その直後に19F縦緩和時間を測定し、1H選択的照射のON/OFFでの19F縦緩和時間の比較を行う。ジフルニサル―ヒト血清アルブミン溶液で解析中である。 上記に記載した進捗状況を総合的に考慮し、本研究課題はおおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
[現在までの進捗状況]で述べたように1H照射-19F検出 STD法の感度が、1H照射-1H検出 STD法より低かったため、高感度化に向けての検討が必要になる。1H選択照射のパルスとして、ハードパルス、ガウス型選択励起パルス、ダンテ型選択励起パルス、ダブルパルス磁場勾配スピンエコー(DPFGSE)法などの種々のパルステクニックを検討し、感度上昇の効果があるかを解析する。 他の方針として、試料溶液のpHおよびタンパク質:フッ素化合物のモル比などを変化させ、1H照射-1H検出 STD法によりタンパク質との結合状態の高い溶液条件を検討する。その試料溶液を用いて1H照射-19F検出 STD法および、19F検出WaterLOGSYスペクトル測定を行う。最終年度であるため、遂行可能なNMR測定には時間的制約があるが、(1)1H選択照射のパルスの検討、(2)試料溶液の条件検討に重点を置き、効率的に研究を進める予定である。1H選択的照射のON/OFFでの19F縦緩和時間測定は、1H 緩和時間と比較して、比較的短時間で行えるため、STD法と並行して解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度内に4月および3月の2回、アメリカ合衆国での国際的な核磁気共鳴学会(Experimental NMR Conference)において研究成果発表を行ったため、旅費が当初の予算を超過した。核磁気共鳴法におけるプログラミングの技術援助として謝金が発生し、また学術雑誌への論文発表において、投稿料が発生するなどした。これらの予算超過を考慮し、物品費の執行を抑制した分、結果的に次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
核磁気共鳴装置の維持に必要な液体ヘリウムの購入に充てる予定である。 一回の充填で100 L使用し、見積額が26万円と高額であるため、液体ヘリウム購入の一部に充てる。
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