生体膜は、「物質輸送」や「シグナル伝達」を担う、細胞機能に欠くことの出来ない膜構造体である。厚さは僅か10nm程度の膜インターフェイスは、膜の表裏でその機能が全く異なる。特に細胞質側(裏側)の反応は細胞内側にあり、基質濃度などの反応条件制御が難しく、反応速度や結合定数などの物理量の情報がほとんど得られていない。本研究は、これまで計測が困難であった、細胞膜裏側で行われる膜タンパク質が関与する反応の反応速度、結合定数の物理量を計測し、これまで明らかにされてこなかった細胞膜機能/物性の計測を計画した。研究では、ヒト培養細胞の細胞裏側を上向きに固定した細胞膜シート用い、P糖タンパク質による「薬物排出」、GPCRによる「シグナル伝達」における基質およびシグナル因子の反応速度、結合定数などを1分子計測によりその物理量の計測を実施した。 研究期間内において、モデル細胞膜(Giant plasma membrane vesicles:GPMVs)の新規の調製方法の確立に成功し、これまでGPMVsは膜タンパク質活性計測等に用いることにいくつかの制限があったが、亜鉛等の金属イオンやアンモニウムイオン等を用いてGPMVsを調製することで、膜タンパク質の活性評価として利用できる可能性を見いだすことができた。また、気-液界面を利用した新たなGPMVsからの細胞成膜方法を確立するに至った。また、活性を計測可能ないくつかのモデル膜タンパク質の準備も終了した。しかし、微細加工基板上に細胞膜を固定する効率を向上させることが本研究全体のボトルネックとなり、研究進度が当初の計画よりも遅れた。最終的な研究目標達成のために、微細加工基板上に細胞膜を効率的に固定する新たな方法の確立していく。
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