研究課題
27年度に引き続き、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)のパルミトイル鎖末端を,長さの異なる種々のRf基により置換した部分フッ素化リン脂質群Fn-DPPCの大量合成を行った。昨年度までにグラムスケールでの合成・精製条件を確立したF4-DPPCおよびF6-DPPCの追加合成を行う一方、さらにRf鎖長の長いF8-DPPCについては,合成を完了していた中間体の部分フッ素化パルミチン酸を用いて,グリセロホスホコリンとのエステル化によりF8-DPPCの合成を試みた。その結果,10 mgオーダーのF8-DPPCを得ることはできたが,従来の合成・精製条件では十分な収率を上げることができない状況であり,現在異なる経路による合成を試みている。今年度追加合成したF4-DPPC,F6-DPPCの熱物性に関して,脂質膜懸濁液のDSC測定によりその再現性を調べた。その結果,ゲル-液晶相転移温度および相転移の熱力学量についても,高い再現性が得られた。さらに今年度合成に成功したF8-DPPCについても同様の測定を行ったところ, F4-DPPCおよびF6-DPPCに比べて劇的な相転移温度上昇が見られ,その温度はDPPCよりも格段に高い温度であった。部分フッ素化リン脂質の二分子膜の構造情報を得るために,放射光を用いたX線回折測定を行った。3種類のいずれの部分フッ素化DPPCにおいても,DSCで観測された吸熱ピークの温度前後で,アシル鎖の融解に伴う広角X線回折パターンの大きな変化が見られることがわかった。さらに現在,小角側の回折ピークを用いて,詳細な脂質膜構造の解析を行っている。F6-DPPCリポソームへの膜タンパク質バクテリオロドプシン(bR)の再構成試料は,十分に高い収率で得られ,また天然紫膜類似の高次構造および光サイクルを有することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
28年度に予定していた項目については,全体として概ね予定通りに進んでいる。新規部分フッ素化リン脂質Fn-DPPCの合成はn=8まで進んでおり,グラムスケールの合成法の確立までもう一息である。合成を終えた部分フッ素化DPPCの脂質膜のキャラクタリゼーションに関しては,DSCによる熱物性およびX線回折による構造解析を進めており,Rf鎖長に依存した興味深い特徴がわかりつつある。リン脂質と部分フッ素化リン脂質からなる混合膜の物性の解析も進めており,現在再現性を確認しているところである。モデル系であるbRの再構成実験も問題なく行えており,系統的な解析結果がまとまりつつありある。
当初の研究計画に基づき,29年度の研究計画を遂行する。F8-DPPC,さらにRf鎖長を長くしたF10-DPPCの合成法を確立し,その大量合成を速やかに行う。さらに,bRに加えて,ウシロドプシンの再構成実験を行い,GPCRの構造・機能解析につながる研究基盤の構築を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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