研究実績の概要 |
膜タンパク質再構成および脂質膜物性の解析のために,引き続き、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)のパルミトイル鎖末端を,長さの異なる種々のRf基により置換した部分フッ素化リン脂質群Fn-DPPCの大量合成を行った。部分フッ素化パルミチン酸とグリセロホスホコリンのエステル化による大量合成が困難であったF8-DPPCについては,高木らが考案したグリセロールを用いた従来の方法を用いることにより,十分な試料量を確保できた。 n=4,6,8のそれぞれの脂質膜懸濁液の熱物性を系統的に調べた結果,基本構造は同じであるがアシル鎖の若干短いジミリストイルホスファチジルコリンの部分フッ素化アナログ分子Fn-DMPCに類似したRf鎖長依存性を示し,特にn=8では,部分フッ素化リン脂質特有の際だった特徴を示した。 さらに,Fn-DPPC二分子膜の放射光X線回折測定を行ったところ,十分に高次の回折ピークを測定することができた。求められた電子密度分布図から,Fn-DPPC二分子膜モデルを構築した結果,長いRf鎖長を有する部分フッ素化リン脂質では,脂質二分子膜内部の微細構造が,Rf基が短い場合と大きく異なることがわかった。 部分フッ素化リン脂質Fn-DPPCリポソームへの膜タンパク質バクテリオロドプシン(bR)の再構成試料は,いずれも十分に高い収率で得ることができた。また,再構成試料は天然類似の高次構造および光サイクル,高い熱安定性を有することがわかった。特に,Rf鎖の長い部分フッ素化リン脂質を用いた場合,天然試料に匹敵する安定性を示した。
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