研究課題
近年、がん細胞から放出されたexosomeに含まれるmicroRNA (exosomal miRNA)によるがん細胞の増殖制御機構、転移制御機構が見出され、疾患治療の標的分子として非常に注目を集めている。しかしながら、その特異的機能阻害法に関する報告例は無い。本研究ではexosomal miRNAの機能阻害を目指し、exosome表面抗原を認識する抗体(anti-Exo抗体)を薬物輸送担体として利用することで、anti-miRNA核酸をexosomeに付随させて受容細胞に送達する新たなDDS戦略の構築を試みた。種々のがん細胞で発現の亢進が認められているexosomal miR21を標的とし、anti-Exo抗体にanti-miR21核酸を結合させた抗体結合型核酸(ExomiR-Tracker)を設計した。まず、Traut’s Reagentを用いて抗体にSH基を導入し、Cys(Npys)-(D-Arg)9 (Anaspec) と反応させることでオリゴアルギニンペプチドの抗体への導入を行った。次にアルギニン化抗体とanti-miRNA核酸とをPBS中で複合体形成し、ExomiR-Trackerを得た。ExomiR-Trackerの細胞内局在を観察したところ、細胞内に取り込まれた anti-miR核酸が細胞質に局在することが確認された。さらに、ExomiR-Tracker は口腔上皮がん細胞においてmiR21の機能を配列特異的に阻害することが可能であり、その結果、がん細胞の増殖を顕著に抑制可能であることが見出された。この効果は in vivo(ヌードマウス)を用いた実験系でも認められたことより、ExomiR-Tracker の核酸医薬としての有効性が示されたと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度、培養細胞を用いて本研究の概念検証実験に成功したが、本年度はがん細胞由来 exosomal miRNA の機能制御を達成出来ただけでなく、その効果を in vivo でも確認することが出来た。また、国際特許出願(PCT/JP2017/005994)だけでなく、製薬企業との共同研究締結に着手することも出来た。今後、ExomiR-Tracker の体内動態や血中半減期などについて、より詳細に調べる必要があるが、当初の計画では in vivo での検証や有効性評価は次年度に予定していたため、自己評価を区分(1)と判断した。
(1)実験動物を用いたエキソソーム追跡型microRNA捕捉分子の機能評価担癌マウスを作成し、マウス血中からmicroRNAを抽出し、リアルタイムRT-PCRを用いて発現量を定量することで、マウス血中において発現量が亢進しているmicroRNAを特定する。標的microRNAに相補的な配列を有するRINDA-Oligo を合成し、抗体に連結させることでエキソソーム追跡型microRNA捕捉分子を合成する。これをマウス血中に投与し、マウス体内のどの組織に集積するか in vivo imaging装置を用いて定量評価する。研究が当初計画どおりに進まない時の対応:担癌マウスで有意な結果が得られなかった際には、培養細胞を用いた条件検討に戻る。培養細胞で繰り返し成功が得られた場合、エキソソーム追跡型microRNA捕捉分子がマウス血中においてエキソソームに結合出来なかった可能性が考えられるため、抗体の最適化を再度検討する。(2)RINDA-Oligo 、エキソソーム追跡型microRNA捕捉分子のさらなる最適化ガン細胞および実験動物を用いて得られた結果を、各々の分子設計に繰り返しフィードバックし、分子構造のさらなる最適化を行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
Journal of Physical Chemistry
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http://www.hakubi.kyoto-u.ac.jp/jpn/02_mem/06yamayoshi.shtml