研究課題/領域番号 |
15K05565
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川上 徹 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (70273711)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒストン / ユビキチン / イソペプチド / チイラン / ペプチドライゲーション / 翻訳後修飾 |
研究実績の概要 |
ヒストンは遺伝子を収納する足場となるタンパク質で,これにDNAが巻き付くことでヌクレオソームが形成される.ヒストンは複数の部位に多様な翻訳後修飾を受け,エピジェネティックな遺伝情報の発現制御に関与している.しかし,部位特異的に修飾を施したヒストンの調製が困難なことから,個々の修飾と機能の関連は明確には理解されていない.本研究では,独自に開発したCPEライゲーション法を用いて,修飾ヒストンライブラリーを構築するための基盤となる合成法の開発を目的とする. 本年度は(1)組換えペプチドをC末端セグメントに用いる修飾ヒストン合成法の開発,(2)簡便なユビキチン化ヒストン調製法の開発を計画した. (1)ではトリメチル化リシン含有ヒストンH3の合成を前年度に進めていた.Cys残基を含まないH4の合成は,C末端側Cysペプチド(組換えペプチド)と化学合成N末端側CPEペプチドとのライゲーションの後,脱硫することによって成功していた.一方で,ヒストンH3はC末端領域にCys残基を有するため,チオール保護基としてPac基を選択的に導入する方法を開発し,トリメチルリジン含有ヒストンH3合成に適用した. (2)ではCys残基チオール基に1,2-アミノチオール構造を導入するリンカーを開発し,簡便なイソペプチドミメティクスを調製する方法の開発を進めた.リンカーとして2-メチルチイランの利用を考えたが,チイランがオリゴマー化する問題があったが,グリオキシル酸を共存させることで1,2-アミノチオール構造をチアゾリジンとすることで問題を解決した.このチアゾリジンはO-メチルヒドロキシルアミンにより,1,2-アミノチオール構造に戻すことができた.ユビキチンCPE体を固相合成により調製し,1,2-アミノチオール構造を導入したヒストンH3ペプチドと反応させて,ユビキチン化ヒストンH3ペプチドを調製した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では,修飾ヒストンライブラリーを構築するための基盤となる合成法の開発を目的として,(1)組換えタンパク質を合成ブロックとするヒストン調製法の開発,(2)システイン残基を介する簡便なユビキチン化ヒストン調製法の開発,(3)固相ライゲーション法による修飾ヒストン合成法の開発,を項目として挙げている.平成27年度は(1)組換えペプチドをC末端セグメントに用いる修飾ヒストン合成法の開発,(2)簡便なユビキチン化ヒストン調製法の開発を計画していた. (1)では組換えペプチドをC末端セグメントとして用いて,学合成N末端側部分CPEペプチドとのライゲーションの後,脱硫することによって,Cys残基を有していないトリメチルリシン含有ヒストンH4の合成に成功し,この方法は同様にヒストンH2AおよびH2Bに適用できる.一方で,C末端領域にCys残基を有するヒストンH3についてもこれらのCys残基に選択的に保護基を導入する方法を開発し,トリメチルリジン含有ヒストンH3合成に成功した. (2)では2-メチルチイランをCys残基チオール基に選択的に反応させて1,2-アミノチオール構造を導入することに成功し,続いてペプチドライゲーションによって簡便にイソペプチドミメティクスを調製する方法の開発に成功し,ユビキチン化ヒストンH3ペプチドを調製することができた. 以上からおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画では,修飾ヒストンライブラリーを構築するための基盤となる合成法の開発を目的として,(1)組換えタンパク質を合成ブロックとするヒストン調製法の開発,(2)システイン残基を介する簡便なユビキチン化ヒストン調製法の開発,(3)固相ライゲーション法による修飾ヒストン合成法の開発,を項目として挙げている.(1),(2)については平成27年度に基本的な方法論を確立できたと考えている. 平成28年度は,(3)固相ライゲーション法による修飾ヒストン合成法の開発を目的として,ペプチドを固相に担持するためのリンカーを精査し,また,ペプチド主鎖構築のために,再度簡便なライゲーション法によるヒストンの全合成ルートを精査して,その情報を固相ライゲーション法へフィードバックする.また,簡便なユビキチン化ヒストン調製法の開発を継続する.ユビキチンはモノマーでもヒストンの2/3程度の大きさであり,ユビキチン化ヒストンのフォールディングが懸念される.ヌクレオソ-ム形成における影響やその熱安定性を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究が順調に進行したため,来年度以降の研究のために若干の予算を繰り越すことになった.
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次年度使用額の使用計画 |
若干の繰り越された予算について,来年度以降の研究計画に取り込み効率的に使用する.
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