研究課題/領域番号 |
15K05569
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
井上 晃 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (50109857)
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研究分担者 |
中嶋 弘一 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (00227787)
山本 直樹 東京都立多摩総合医療センター(臨床研究・教育研修センター(臨床研究部)), 精神神経科, 部長 (70312296)
國本 浩之 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (80372853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RBM10/S1-1 / 選択的スプライシング / RBM10標的遺伝子の同定 / RBM10が関わる細胞内過程 / RBM10異常による細胞病態と疾病 / RBM10によるG2/M期arrest / 細胞内RBM10レベルの制御機構 / X-linked 遺伝子 |
研究実績の概要 |
本申請者は細胞核タンパク質RBM10/S1-1を1996年に見出し、これが選択的スプライシングの制御因子として遺伝子発現に重要な役割を果す事を明らかにしてきた。一方、疾病の変異遺伝子研究からRBM10の異常は心房中隔欠損症などを伴うTARP症候群、多様な発ガンそして認知機能障害といった多彩な病態に関わることが報告されてきた。本研究ではこのような表現系へのRBM10の関わりを理解する為に、RBM10の選択的スプライシング制御を受ける標的遺伝子を同定し、RBM10が関わる分子・細胞病態を明らかにする事を目標とした。 我々はH28年度の研究過程で、RBM10の過剰発現が細胞増殖を抑制する事を見出した。これはRBM10の過剰発現で細胞分裂時に中心体形成に障害が起こり、その結果、細胞周期がG2/M期に停止し、細胞増殖が阻害される機構によるものである。目下この成果を論文に作成中。またこの現象に関わる遺伝子群を同定中である。 RBM10の過剰発現は上述のように細胞周期停止という細胞病態を引起こす。RBM10遺伝子はX染色体にあり、女性細胞では2つのX染色体のどちらかが不活性化を受け、その染色体上のRBM10は発現が抑えられる。この不活性化機構は、細胞内の過剰RBM10を正常レベルに制御する機構の存在することを強く示唆する。 実際、RBM10は細胞核内のS1-1 nuclear body と呼ぶ核内構造体に隔離され、隔離されたRBM10は細胞の転写活性上昇に伴ってnuclear bodyから核質に動員されることを明らかにした。この成績は、生成pre-mRNAsから成熟mRNAsとする際に必要となるRBM10をS1-1 nuclear bodyから動員することを示す結果と理解される。この研究成果も上と同様現在論文作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RBM10によってスプライシング調節を受ける遺伝子群の網羅的同定のために、HepG2細胞、このRBM10をknockoutしたRBM10非発現細胞、そしてTet-On系を用いて過剰発現とする細胞、の3種の細胞を使ったRNA Seqの結果を解析。研究実績に述べたように、H28年度の研究結果をもとに2つの論文が完成途上にあるが、予定の研究計画には遅れがある。
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今後の研究の推進方策 |
RBM10が制御する遺伝子群のリストを完成し、RBM10が関わる細胞生物学的諸過程をさらに明らかにして行く。これらの作業の成果から、RBM10異常で発生する細胞病態、分子病態の理解へとさらに研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、委託RNA-seq(Filgen社)に係る経費1228千円を計上したが、初年度(H27年度)のRNA-seq解析で得られた結果を踏まえて、RBM10の過剰発現による細胞増殖の抑制という重要な知見の研究にさらなる時間と研究費を投入することにした。この目的にH28年度委託RNA-seq分の経費を使用し、一部が残額としてH29年度に繰越される形となった。
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次年度使用額の使用計画 |
すい臓がんではRBM10の変異で生存率が飛躍的に伸びることが報告されている(Nat. Commun. 6, 2015)。RBM10が関わる細胞病態、分子病態の本研究において、不思議なしかし極めて重要なこの現象の機構解明に本繰越金を使用することとなろう。
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