研究実績の概要 |
本研究の目的は、チミンの5位メチル基の他の置換基への置換が、DNAポリメラーゼによるプライマー伸長反応 (PER) での金属錯体型塩基対の形成に及ぼす影響を明らかにすることにある。 平成29年度はPERのpH依存性について検討し、T-Ag(I)-C塩基対の形成反応はpHの上昇 (pH 7.1→7.9) により促進されることを見出した。これは、チミンと比較し3位NHの酸性度が高い5-フルオロウラシル (5FU) を用いた場合に5FU-Ag(I)-C塩基対の形成効率が上がるという前年度の結果と一致した。逆に、5位を水酸基で置換したウラシル (HOU) を用いた場合、T-Ag(I)-Cと比較してHOU-Ag(I)-Cの形成効率が下がることから、チミン3位NHの酸性度がAg(I)錯体型塩基対の形成に重要であることが明らかになった。 一方、Hg(II)存在下のPERによるT-Hg(II)-Tの形成反応のpHおよびチミンの5FUへの置換の影響について調べたところ、これらによる影響はほとんどなく、Ag(I)の錯体形成を介するPERとは対照的であった。 また、中央部にT, C, FUを含む15merオリゴヌクレオチド (ODN) を合成し、ミスマッチ塩基対を含む二重鎖の融解温度の測定を行った。1当量のAg(I)の添加によって、T-Cミスマッチ塩基対は約6 ℃融解温度が上昇するが、5FU-Cは約12 ℃の上昇が認められ、Tの5FUへの置換によりAg(I)による二重鎖安定化が大きく向上した。一方、T-Tミスマッチ塩基対に1当量のHg(II)ンを添加すると約9 ℃、5FU-Tでは約8.5 ℃の上昇しか認められず、Tの5FUへの置換による安定化は認められなかった。 以上より、T-Ag(I)-CとT-Hg(II)-Tで、錯体形成反応の速度論的、熱力学的特性はまったく異なっていることが判明した。
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