研究課題/領域番号 |
15K05575
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
中野 修一 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (70340908)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | DNA / RNA / リボザイム / デオキシリボザイム / イオン液体 / アルキルアンモニウムイオン |
研究実績の概要 |
イオン液体を利用した核酸酵素テクノロジーの創製を目指して、前年度まではハンマーヘッドリボザイムのヌクレアーゼ活性を検討してきた。今年度は、様々な種類の核酸酵素に対するアルキルアンモニウムイオンの影響を調べた。リガーゼ活性をもつRNA酵素(R3C ribozyme)とDNA酵素(9DB1 deoxyribozyme)を調製し、基質RNAの連結反応速度を解析した結果、アルキルアンモニウムイオンはこれらのリガーゼ活性を大きく低下させることがわかった。また、マルチターンオーバー活性も低く、アルキルアンモニウムイオンを使ってリガーゼ活性を向上させる条件を見出すことはできなかった(一方で、分子クラウディングの条件は見出された)。これはハンマーヘッドリボザイムとは逆の効果であり、リガーゼ活性をもつ核酸酵素に対しては高次構造を不安定化させる作用が大きかったものと推測される。 一方で、金属イオンの結合とアルキルアンモニウムイオンの結合が競合することを利用して、核酸酵素の金属イオン応答性を向上させる試みを行った。この研究では、バイオセンサーとしての利用が期待されているRNA酵素(lead-dependent ribozyme)とDNA酵素(17E deoxyribozyme)を検討した。様々な条件で反応速度解析を行ったところ、アルキルアンモニウムイオン存在下では酵素活性が低下するものの、金属イオン応答性は向上することが見出された。 イオン液体化合物の作用メカニズムを解明するために、嵩高いカチオン性物質である塩基性タンパク質を使って、分子の立体障害がDNA構造の安定性に与える影響を調べた。その結果、アルキルアンモニウムイオンと同様に、塩基性タンパク質がループ構造を安定化させたことから、イオン液体化合物の結合には立体障害の寄与が重要であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、サイズが大きなイオン液体化合物、とくに比較的長いアルキル鎖をもつアルキルアンモニウムイオンは核酸の二重鎖構造を不安定化させる一方で、大きなループ構造(インターナルループ、バルジループ、ヘアピンループ)を安定化させることを見出している。この嵩高いカチオン性分子がもつ塩基対構造の不安定化とループ構造の安定化の効果は、様々な核酸構造体の形成制御に有効である。さらに、この特性を利用して、核酸酵素の触媒活性の制御、ターンオーバー速度の向上、核酸酵素を利用したバイオセンサーの高感度化にも成功し、アルキルアンモニウムイオンによって核酸酵素の機能制御が可能であることが明らかとなっている。また、アルキルアンモニウムイオンがDNA鎖交換反応を促進させることを利用して、DNAチップやモレキュラービーコンなどのターゲット配列への結合速度を高めることも見出した。このように、いろいろな用途でイオン液体化合物の利用を試みることで、核酸テクノロジーの発展につながる成果が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度となる今年度は、イオン液体化合物の立体障害の重要性を明らかにする取り組みを行う。様々な種類のイオン液体化合物を試すとともに、タンパク質やポリアミン化合物が核酸の構造安定性と分子機能に与える影響を詳しく調べる。そして、得られるデータをイオン液体化合物の効果と比較することで、イオン液体化合物の作用メカニズムの解明を試みる。 一方で、イオン液体化合物の作用として、グアニンDNA四重鎖の構造と安定性に対する影響を調べる。ゲノムで見られるグアニンの連続配列は四重鎖構造を形成すると考えられているが、その四重鎖にはグアニン配列を介在するループが含まれる。しかし、長いループの存在は四重鎖構造を不安定化させることから、実際に四重鎖構造が安定に形成できるかは明らかではない。また、四重鎖はいくつかのアプタマーでも見られる構造体であり、この取り組みはイオン液体化合物を四重鎖に利用するために重要である。そこで、グアニン四重鎖に対するイオン液体化合物の影響がループによってどのように変化するのかを検討する。ループの長さを変えたDNA四重鎖を設計し、その熱安定性や構造を測定することで、イオン液体の利用を四重鎖構造に拡大する方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は追加採択であったため、当初の計画から半年ほど遅れて研究を開始した。研究開始の遅れは取り戻しつつあるものの、当初に計画していた実験の一部は実施できていない。今年度に生じた残額は、これまでに実施していない実験を進めるために必要な消耗品等の購入に充てる予定である。
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