研究課題/領域番号 |
15K05589
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
河濟 博文 近畿大学, 工学部, 教授 (10150517)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ラマン分光法 / プラスチックリサイクル / マテリアルリサイクル / 促進暴露試験 / 多変量スペクトル解析 / 酸化誘導時間 |
研究実績の概要 |
本課題は、重要なリサイクル資源である廃プラスチックを効果的に選別回収するために必要となるプラスチックの種類や劣化の程度をオンライン・リアルタイムで計測できるラマン分光法をベースとしたセンシング技術の開発を目指している。初年度である平成27年度の研究実績は次の各項目より成る。 ①標準劣化サンプルの製作:キセノンフェードメータ(150W/m2-63℃)で促進ばく露により劣化サンプルを製作した。PE、PP、PS、AS、ABSに0.5MJ/m2~270MJ/m2の幅広い範囲で紫外線を照射した。企業と協力して廃プラスチックを選別回収して、混練押出機でペレット状にした再生樹脂を製作する方法を確立した。劣化がどのように再生樹脂に影響を与えるか明らかにできる。 ②ラマンスペクトルの測定:研究用ラマン分光装置と赤外吸収装置により①の劣化サンプルの振動分光スペクトルを測定した。IRでは光照射エネルギーが大きくなると、カルボニル基や二重結合伸縮が明瞭に表れた。ラマンではCC伸縮やCH変角のピークに対してCH伸縮のピーク強度が小さくなっていることが確認できた。スペクトル測定では、酸化誘導時間が測定できない少しの劣化でも変化が測定できた。 ③熱物性の測定:スペクトル測定以外で劣化を確認する方法として酸化誘導時間による熱物性を測定し、明確な対応を確認した。 ④ラマンスペクトルの多変量解析:大きなバックグラウンドを除去し、数値解析を行う方法(マセマティカル・モルフォロージ法とクラスター解析の組み合わせ)を検討し、バックグラウンド除去に大きな効果があることを示した。 ⑤ポータブルラマン分光器試作:従来から開発していたものをベースに、集光光学系に大幅な変更を加え、大きな光量が測定できるようにした。併せて、励起レーザに高出力狭帯域のものが使えるようにした。残念ながら設計段階で計画した性能を得ることができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画は①標準劣化サンプルの製作、②ラマンスペクトルの測定、③熱物性の測定、④ラマンスペクトルの多変量解析⑤ポータブルラマン分光器試作より成っていた。そのうち①~④は計画通り、特に①に関しては、促進ばく露の方法を種々検討し、今後の評価に使える「標準」と呼ぶに値するサンプルを作成することができた。②、③は劣化サンプルの状態が良好だったので、詳細な解析が可能な結果を得ることができた。④は、従来行ってきた多変量解析法の一つであるマハラノビス法によるものとは別の方法の適用可能性につき研究した。ピーク抽出法やクラスター解析法が適用できることにある程度の目処を得た。ベストの方法を見出すには、⑤のラマン分光装置の完成を待つ必要がある。⑤のラマン分光装置の試作は、これまで我々のグループで試作してきたものと同程度の性能は得られたものの、励起レーザ光源を狭帯化するなどの改良の効果が表れず、満足できる進捗ではなかった。一方、ナノ粒子を使った表面増強ラマンでは、プラスチックから十数倍に増強されたラマン散乱信号が得られるなど十分な基礎データが得られたので、次年度にポータブルラマン分光器に組み込むことを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、ポータブルラマン分光器の完成、さらに性能向上に注力する。合わせて、平成27年度に得られたナノ粒子を使った表面増強ラマン効果の成果をどのようにポータブルラマン分光器に組み込むか検討する。また、プラスチックの劣化サンプルもしくはリサイクルサンプルの機械強度物性を測定し、ラマンスペクトルとの関係を明らかにするための準備を始める。その後、これまで得られたデータである促進ばく露時間、熱および機械物性値と対応させることができる、すなわち劣化が定量化できるラマンスペクトルの多変量解析法を検討する。解析手法の選択および解析パラメータの最適化について検討することになる。 レーザ光源以外のポータブルラマン分光器の部品はほとんど現有品を流用して試作したため、未執行予算が発生した。未執行経費は平成28年度で、形状の効果や増強率の違いを調べるために比較的高価なナノ粒子の購入に当てる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
レーザ光源以外のポータブルラマン分光器の部品はほとんど現有品を流用して試作したため、未執行予算が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
未執行経費は平成28年度で、形状の効果や増強率の違いを調べるために比較的高価なナノ粒子の購入に当てる予定である。
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