最終年度はペリレン誘導体(PTCBI)をn型層に、チタニルフタロシアニン(TiOPc)あるいはシリコンフタロシアニンジクロリド(SiPcCl2)をp型層にそれぞれ用いて有機p-n接合体を作製した。PTCBI/TiOPc系およびPTCBI/SiPcCl2系ともに、400 nmから1100 nmの範囲で酸化反応を誘起する光触媒材料であることを見いだした。それぞれの有機p-n接合体のヘテロ界面には約300 mV(PTCBI/TiOPc系)、約500 mV(PTCBI/SiPcCl2系)の内蔵電場の存在が確認されたことから、可視~近赤外域の光吸収に起因して励起子が生成し、p-n界面における励起子分離により生じたキャリアにより光触媒反応が誘起されたと考えられる。 本研究期間において鉛フタロシアニン(PbPc)をp型層としたPTCBI/PbPc系が可視~近赤外域の光エネルギーに応答する光触媒として作用することを明らかにするとともに、可視光にのみ応答する対照実験系(PTCBI/無金属フタロシアニン(H2Pc)系)よりも高い光触媒活性を示したことから、広域太陽光の利用がより効率的な光触媒反応を進める上で有効であることを実証した。しかし、n型層にフラーレン(C60)を用いたC60/PbPc系はPTCBI/PbPc系とは異なり、近赤外域で光触媒活性を発現しなかった。これらは各n型層上で生長したPbPcの結晶構造の違いによるものと考察した。つまり、下地(n型層)に依存した結晶成長が起こり、PTCBI/PbPc系では近赤外光も吸収可能な三斜晶が生長し、一方、C60/PbPc系では可視光のみを吸収する単斜晶が生長したと考えられる。最近の研究から、C60上でも三斜晶のPbPcを得る手がかりを掴んでおり、引き続き検討を進める予定である。
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