研究課題/領域番号 |
15K05602
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
大竹 才人 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (30437355)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 機能表面 / 表面修飾 / シリコン / 4-シアノフェノール |
研究実績の概要 |
現在,金属・ガラス・半導体等の無機固体表面上に有機単分子を修飾し,それを各種機能表面として利用する試みが行われている。特にSi表面は工業的に重要で、機能性材料や分子素子の基板としても注目されている。このSi表面上へ有機単分子を分子レベルで制御して機能を付加した修飾法の開発は極めて有用である。 そこで、脂質二重層をモデルとして、Si表面に二本鎖アルキル単分子を表面修飾させてその時の有機分子との相互作用について、in-situ ATR-FTIRによる観察を行った。ここでは、相互作用させる有機分子として疎水性であるベンゼン環と親水性であるシアノ基とフェノール基を有する4-Cyanophenolを用いた。 その結果、4-Cyanophenolは疎水性のSi表面には物理吸着するが、一方でSi表面が酸化されて親水性の表面になって離れていく。また4-CyanophenolはSiの表面酸化を抑制する効果は少ないことから、Si表面に吸着する際に強い2個の極性基によって水分子をともなって吸着して、その水分子がSi表面を酸化していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
はじめに10^-3 Mの4-Cyanophenol水溶液を流通した場合のIRスペクトルの経時変化をみると、2234 cm^-1に4-Cyanophenolによるシアノ基のピークが観測された。しかし時間が経過するとピークが減少していき、Si表面から離れていくものと考えられる。これは4-Cyanophenolが疎水性のSi表面には物理吸着するが、Si表面が酸化され、親水性の表面になると、離れていくと考えられる。このとき、強い極性をもつシアノ基と水酸基はなるべくSi表面から離れる構造をとると考えられる。4-Cyanophenolは疎水性のSi表面へ吸着するが、Siの表面酸化を抑制する効果は少ないことから、強い極性基を2つもつ4-CyanophenolがSi表面に吸着する際、水分子をともなって吸着し、その際水分子がSi表面を酸化していると考えられる。 続いてSiO2基板を用いて、親水性の酸化膜Si表面への吸着挙動を確認した。流通したのは5×10^-3 Mの4-Cyanophenol水溶液で、基板は化学酸化膜を形成したSi表面と、エッチングにより水素終端したSi表面で行った。そのIRスペクトルにおいて、どちらの基板においても4-Cyanophenolによるシアノ基のピークが観測されたが、水素終端したSi基板でピークが明らかに大きい。このことから4-Cyanophenolは疎水性である水素終端したSi表面に吸着しやすいことが明らかとなった。 以上より、4-Cyanophenolが水分子を巻き込んだ吸着形態をとり、これがSi表面の酸化を促すことが明らかとなり、これらの進展は当初の計画を上回るものであった。この成果は論文として公表されて非常に大きな進展となった。
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今後の研究の推進方策 |
生体膜はこのリン脂質の二分子膜を基盤として形成されており、疎水基同士を向かい合わせ、親水基が膜の両側の水相に向かっている構造となっていることが知られている。この脂質二重層の一層を疎水性で占める水素終端Si基板で置き換えて、その表面に界面活性剤など二本鎖を有する単分子を吸着させることにより、生体二分子膜(脂質二重層)の機能を解明する1つのモデルとなる。 そこで単結晶Siを基板として利用し、その表面に長鎖分子として界面活性剤として知られているエーロゾルOTで修飾して、更に芳香族分子として4-Cyanophenolを導入することによって共吸着させ、膜の構造や振る舞いをin-situ ATR-FTIRによる測定によって解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費を計上していたが、前年度までに十分な物品を購入していた為に、次年度使用額が生じた。この予算を消耗品費等にあてる予定である。
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