研究課題/領域番号 |
15K05604
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山野井 慶徳 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (20342636)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 円偏光発光 / 不斉ケイ素原子 / パラジウム触媒 / ピレン / アントラセン |
研究実績の概要 |
円偏光発光を示す化合物は3次元ディスプレイの発光材料としての利用が期待されている。円偏光発光性化合物はこれまでにアトロプ異性体やπ共役高分子などの凝集状態での研究報告が殆どであり、単分子状態で良好な結果を示す例はあまり知られていない。一方、π共役置換基が結合した有機ケイ素化合物は良好な発光特性を示すものが多い。不斉ケイ素原子にπ共役置換基を結合させれば、不斉ケイ素原子を介してキラルな共役系を構築することができるために、単分子状態で高性能な円偏光発光特性(gCPL)を示すことが期待できる。 平成28年度は平成27年度で行った化合物群のπ共役系をより拡張した化合物の合成と光物性に関する研究を行った。具体的には平成27年度で合成したアントラセン部位をより大きなπ共役系を有する置換基(具体的にはピレン骨格)に置換したものである。合成は我々が開発したパラジウム触媒を用いた2級シランの不斉アリール化反応で行った。収率は20%~50%程度で単離でき、光学的に純粋な化合物は再結晶を繰り返すことで得られた。 予測したように分子のキラル性が大きいほどgCPLの値は大きくなった。キラル性の大きさは不斉ケイ素原子に結合する各々の置換基の大きさの差に依存するため、ピレン誘導体はアントラセン誘導体と比較し、より大きなgCPL値を示した。吸収および発光過程の考察のため、Gaussian 09を用いた理論計算を行った。これらの化合物の吸収及び発光は、アントラセンやピレンの骨格上及びその骨格に結合したケイ素原子上に存在するHOMO-LUMO(S0-S1)間の遷移が主である。したがって、これらの化合物のgCPLの大きさは、1分子内の不斉ケイ素原子の数に依存すると考えられる。ケイ素上のπ共役置換基を変化させることで分子構造と円偏光発光特性の相関を調査し、最大でgCPL=0.008を示し、単純な有機ケイ素化合物では非常に高い値を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は順調に進んでおり、最終年度はより高い円偏光発光特性を示す化合物の合成を試みる。
|
今後の研究の推進方策 |
ケイ素上に不斉中心を有していないが、骨格炭素上に不斉点(軸不斉、面不斉)を持つ有機ケイ素化合物の合成に申請者が開発した合成反応を適用し(光学活性金属触媒を用いた速度論的光学分割を活用する)、多方面からの本合成反応による円偏光発光性化合物の合成も合わせて検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年9月に環状ジシラン化合物の合成と光学活性体の単離に成功した。この研究は本申請研究から派生した研究で、4ヶ月この研究を行ったため、その分遅れが生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
現在、得られた結果のまとめと最終的な詰めの実験を行っている。この英文校正や論文投稿代金として繰越金額を使用する予定である。
|