本申請研究課題である、縮環芳香族をリンカーを介して結合させた配位子群の合成を行い、フェノール系アニオン性配位子及びピリジン系中性配位子、さらにはジケトン配位子の創成に成功した。 これらの配位子群の金属イオンとの錯化によって、それらの複数の芳香族部位の配向を制限し、溶液内及び結晶内で平面共役系芳香族どうしのスタッキングを抑えることで従来の芳香族分子では発現しない特異な特性、例えばモノマー発光を維持した材料の創成を目指した。 また、縮環芳香族部位として、ナフタレン、ピレン、ぺリレンなどの平面芳香族のみならず、チオフェンなどのヘテロ芳香族を含む縮環芳香族を導入した。その理由は、従来の炭化水素芳香族によるπ平面共役系の相互作用とヘテロ芳香族のヘテロ原子どうしの相互作用を狙ったものである。 上記で合成した配位子群と、d遷移金属イオンとの錯化反応により、オクタヘドラル型の錯体、テトラヘドラル型の錯体及び平面4配位型の錯体群の合成とその構造特性評価を行った。具体的には、亜鉛、鉄、ニッケル、銅、コバルト、ルテニウム、白金、パラジウムのそれぞれの錯体である。これらの錯体の中心金属イオンの配位様式に従い、先述の配位子の配向が決定され、濃度消光やエキシマ―形成といった濃度依存性を抑えた特異な蛍光特性の発現を確認した。また、結晶内では分子間パッキングにより選択的にエキシマー発光を発現させることにも成功した。 さらに、中心金属イオンの価数を酸化還元により変えることによってその発光特性を制御可能であることも見出した。加えて、歪芳香族部位や半導体特性を期待できる構造の芳香族部位の合成を行い、それらの部位を複数有する金属錯体群の合成を行った。
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