研究課題/領域番号 |
15K05612
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
澤田 剛 鹿児島大学, 自然科学教育研究支援センター, 准教授 (90240902)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機光化学材料 / 光異性化 / 高重力場 |
研究実績の概要 |
高重力場を利用したアニソトロピック円偏光発光材料の開発に関して、平成28年は、PZ-DHP類の円偏光発光特性に関する 評価と、基盤材料となるトリ-s-トリアジン(メレム)類の官能基変換と電子物性に関する検討を行った。 PZ-DHP類の円偏光発行挙動に関して、光異性化挙動との関連を調査した結果、光異性化の前後で同じ最大発光波長を示したことから、異なる立体構造で同じエネルギー遷移が起きていることが示唆された。しかしながら、立体構造の違いにより、発光強度の差が観測され、OPEN型構造の方がより高い強度の発光を示したことから、OPEN型に近い励起構造を有することが推定される。さらにごく弱いながらも、円偏光発光が観測された。 トリ-s-トリアジン系基盤材料に関して、アミノ基への芳香環の導入反応と、アミノ基のハロゲンへの置換反応を検討した。アミノ基への導入反応は、塩化アニリニウム類の溶融塩中で反応することにより、トリフェニルメレム、トリトルイルメレムを合成した。また、メレムを水酸化カリウムを用いて加水分解し、シアメル酸カリウムを合成し、その後五塩化リンと反応して、トリクロロトリ-s-トリアジンを合成した。メレム及び、合成したトリフェニルメレン、トリトルイルメレムのエネルギーギャップをTAUCプロットで分析した結果、メレムが3.06 eV, トリフェニルメレン、トリトルイルメレムがそれぞれ、3.81、3.76 eVであることを見出した。 以上の研究成果を、国内学会2件、国際学会1件発表し、関連する研究成果を学術論文1報に共著として発表した。なお、国内学会の1件と国際学会は、招待講演である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年は、PZ-DHP類の円偏光発光特性に関する評価と、基盤材料となるトリ-s-トリアジン(メレム)類の官能基変換と電子物性に関して検討を行った。 発光素子であるPZ-DHPは、光異性化による発光挙動の変化について評価した結果、発光波長は変化せず、発光強度のみが変化することを見出した。このことは構造変化による円偏光発光の制御は困難であり、以前の研究より、円偏光吸収の制御が有効であることを示唆している。一方、トリ-s-トリアジン系基板材料に関しては、官能基変換方法を確立するとともに、エネルギーギャップ等を測定した結果、有機半導体としての可能性が示唆される。 以上の成果より、構造変化による発光波長変換ができないなどの問題点はあるが、基本的な円偏光素子の物性評価と基板材料の合成において進展を見せており、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は最終年度であるので、最終的な目的であるアニソトロピック円偏光発光材料の形成とその評価を行う。具体的には基板材料であるトリ-s-トリアジン系複素環化合物による薄膜形成と有機半導体特性の評価を行うとともに、円偏光素子となる PZ-DHPの高重力下でのドーピングを検討する。 トリ-s-トリアジン系複素環化合物の重合反応に関しては、出発物質をメレン単体から、トリクロロトリ-s-トリアジンとメレムの混合物に変えることで、薄膜の均質化と機能向上を目指す。高重力下のドーピングに関しては、薄膜上にPZ-DHPを塗布し、超高速遠心機を利用して高重力をかけることで実施する。アニソトロピック材料の評価は、XPSなどによる断面のマッピングなどで評価する予定である。 発光挙動は、蛍光分光光度計などで分析を行うとともに、大学連携研究設備ネットワークを介して、広島大学の円偏光ルミネッセンス測定装置などを利用して評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度のH27年度にモノクロメータの購入を予定していたが、予算減額のため購入できず、繰越し金が52万円発生した。そのため、H28年度に、昇華精製に利用する油回転真空ポンプを購入したが、予定額より安く納入された。そのほかに、メレム系複素環化合物の合成に必要な有機溶媒、試薬、ガラス機器などの消耗品の購入や、国際学会、国内学会での発表を実施したが、最終的に、H29年度に繰り越す次年度使用額が34万円発生するに至った。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は最終年度であり、最終的な目的であるアニソトロピック円偏光発光材料の作成と評価を行うため、それに利用する基板材料や加熱装置、有機溶媒、試薬、ガラス機器などの消耗品や、高重力を発生させる超高速遠心機の部品などに使用することを計画している。また、研究成果をまとめて、学会発表や論文発表を行う予定なので、学会発表に伴う旅費や、論文の英文添削、学術雑誌への掲載費などに使用する予定である。
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